企業のマーケティング活動で、ネット上のクチコミはもはや無視できない存在になっている。中でもとりわけマーケティングでの活用が進んでいるのは、ブログ上のクチコミである。しかもその利用方法は、より効果的なものへと変わりつつある。記事への露出を増やすというよりも、掲載された記事がインターネットユーザーに参考になることを志向しているのだ。

 デジカメやパソコンなどを購入する際に、製品の使い勝手や購入後の満足感などのクチコミをインターネットで調べた経験がある人は多いはずだ。実際、製品の購入時の情報源としてネット上のクチコミが果たす役割が増しているのは間違いない。

 企業のマーケティング活動でも、ネット上のクチコミはもはや無視できない存在になっている。中でもとりわけマーケティングでの活用が進んでいるのは、ブログ上のクチコミである。しかもその利用方法は、より効果的なものへと変わりつつある。

当初は製品名や社名を盛り込むのが主流

 ブログのクチコミに対する企業の関心が特に高まったのは、ここ数年のことだ。筆者もこれまで何度かクチコミに関する記事を書いてきた。日経ネットマーケティングの最新号(2009年6月号)でも、ブログ上のクチコミ活用について特集記事をまとめた。

 ブログ上のクチコミ活用といえば、従来は製品名や社名が盛り込まれた記事の本数を増やすことに重点を置く取り組みが多かった。ブロガーをイベントに招待して、その様子を記事にしてもらう。製品名などを含む記事(エントリー)を書くようにブロガーに依頼する、といった具合だ。こうしてブログ上で話題になることを狙ったのである。

 今回特集のために取材した各社の事例は、こうした従来型のものとは少し異なっている。記事への露出を増やすというよりも、掲載された記事がインターネットユーザーに参考になることを志向しているのだ。

 例えば、製品のモニターをブロガーから募集し、決められたテーマについて記事の執筆を募る。ブロガー自身の体験に基づいて記事を執筆してもらい、ほかのユーザーに役立つものにする。その記事へのリンクを張ったサイトを設け、インターネットユーザーが情報源として利用できるようにするといった配慮も怠らない。

 今回の特集では、シェーバー「ラムダッシュ」のそり具合を実感してもらい、率直な意見をブログ上で書いてもらったパナソニックや、香辛料の活用法を知ってもらうためにブログ上でのレシピの公開を募ったハウス食品などの取り組みを取り上げた。

ブログ本来の役割に回帰

 ブログ上で記事の露出数の増大を目指す従来型の取り組みでは、瞬間的に製品名や社名の露出を増やすことはできても、その状態を持続するのは難しい。単純に「認知の獲得」が目的であれば、テレビや新聞などのマスメディアの方が向いているといえる。

 ブログ上のクチコミの本来の役割は、認知の獲得ではなく、インターネットユーザーに対して購買時の比較・参照先に関する有用な情報を与えることにあるはずだ。ブロガーが製品を買った後にどのような評価をしたのか、購入後にどのような使い方をしているのかといった率直な意見を、ブログの読者であるインターネットユーザーが参考にする。今回の特集で取り上げた事例は、いずれもそうしたブログ本来の役割に回帰して成果を上げている。

 景気が低迷する今、ブログ上のクチコミに企業がどう向き合うかという問題は、さらに重要性を増している。消費者が購買に消極的になりがちな状況では、購買への一押しをできるかどうかが企業にとって重要な分かれ目になるからだ。クチコミ活用の成否が、今後ますます厳しく問われることになりそうだ。

 日経ネットマーケティングが6月30日に開催する「NETMarketing Forum 2009」の特別セミナー「日米クチコミマーケティング最前線」では、日米のクチコミ活用の最新事例を紹介する。興味のある方は受講いただければ幸いだ。