ネットワークのしくみを勉強していると,「コミュニケーションのコツや大切さ」に気付くことがよくある。コミュニケーションというのは,人間対人間のコミュニケーションのことである。あいさつや返事の大切さ,チーム作業で気を付けることなど,頭ではわかっていても,知らず知らずのうちにないがしろにしていた自分にあらためて気付かされることが多い。

情報がほしかったら自分をオープンにする

 例えば,インターネットに欠かせないしくみとして,ルーターがパケットを目的地まで送り届ける「ルーティング」がある。ルーティングの動きを勉強していくと,「相手のルーターに自分の知っている経路情報を教えると,そのルーターから自分あてにデータが来るようになる」というルールがあることがわかってくる。

 筆者がこのしくみを知ったとき,「現実と同じじゃないか」と思った。何であれ情報を得たいと思ったり人脈を広げたいと思ったとき,一番いい方法は自分が知っている情報をオープンにして積極的に発信することだと思っている。情報や人脈は,情報を積極的に発信する人に自然に集まってくるからだ。

 いい例がブログである。頻繁に更新してためになる情報を発信しているブログは,自然と人が集まる。そしてさらにそのブログが盛り上がっていく。「教えてもらうばかりではダメで,自らが進んで情報を提供するサービス精神が大切」というコミュニケーションの基本にあらためて気付かされる。

すぐに返事をする思いやり

 また,ルーティングを実現するための手段の一つにOSPF(open shortest path first)と呼ばれるしくみがある。企業ネットワークなどでよく使われており,ネットワークを勉強する際には外せないテーマである。このOSPFのしくみを勉強していてあらためて気付いたのが,あいさつや返事をすることの大切さだ。

 OSPFでは,相手ルーターから経路情報を受け取ると「確かに受け取りました」という意味の「ACK(acknowledgement)」と呼ばれるデータを返信する。こうすることで送信側ルーターは,自分が送った情報が確かに相手に伝わったことがわかる。よって,送ったデータを再び送信する必要がないこともわかる。

 これを知って筆者の頭に真っ先に思い浮かんだのは,メールを使ったコミュニケーションである。相手にメールを送って返事が来ないと,メールがそもそも相手に届いたかどうか不安になる。そこで大切なのが,メールをもらったらすぐに「確かに受け取りました」という内容の短い返事をすること。返事をすることが,相手を安心させるための思いやりになるわけだ。

仲間を放っておかない

 ルーティングつながりで最後にもう一つ。プロバイダで一般的に使われているルーティング手法が,BGP(border gateway protocol)と呼ばれる技術である。BGPのしくみを勉強していて感じたのが,相手を気遣うことの大切さである。

 ルーティングでは,相手のルーターが正常に動いていることを常に把握しておく必要がある。相手のルーターがダウンしたら即座に経路を修正する必要があるからだ。相手が正常に動いているかどうかを知るためにBGPでは,ルーター同士で「keepalive」と呼ばれるデータを定期的に送り合う。「私は動いています。あなたは?」というメッセージを定期的にやりとりするわけだ。

 チームで仕事をしているとき,仲間やお客さんが問題なく働ける状態にあるかどうか気遣うことは大切である。仕事を任せっきりにするのではなく,定期的に「調子はどうだい?」と声をかけて,仲間を放っておかないことが大切だ。執筆作業などに詰まったときに,「調子はどうだい?」と語りかけてくれるときの同僚や上司のありがたさを思い出した。

 以上で取り上げたしくみは,何もルーティング特有のしくみではない。ネットワークのしくみを勉強していると,いろいろなところに出てくる。

難しい技術ほど楽しく勉強したい

 筆者がこの記事で伝えたいのは,「コミュニケーションを大切に」ということではない。ネットワークの勉強がつらいと思っていた人に向けて,「少しでも楽しく勉強ができたら」という想いがあって書いてみた。

 IT技術の中でもネットワーク技術は,用語が専門的で内容も複雑である。情報処理技術者試験に挑戦している人で「ネットワーク分野は敬遠しがち」という人は多いかもしれない。そういう人でも,「勉強すると人生訓が得られる」なんて考えると,勉強する楽しさが出てくるのではないだろうか。無機質に思えた専門用語にも親近感がわいてくる。

 すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが,ITproのスキルアップ系コンテンツを集めたITpro SkillUPは,2009年6月上旬に「selfup」としてリニューアルする予定である。selfupでは,スキルアップを目指すITパーソンに役立つ情報をご提供するとともに,勉強する楽しさも発信できたらと思っている。