顧客をつかむ力の重要性が高まっている。顧客とは、エンドユーザーといわれる一般の企業のことである。厳しい不況のなかで、ソリューションプロバイダが業績を維持し、再び成長するためには、一般企業との取引を増やすべきだということだ。
大手IT会社の2008年度決算の発表会にいくつか出席し、日経ソリューションビジネスの編集部でその内容について会話するうちに、強くこう考えるようになった。
二極化する社長の一言
最初は、決算説明会に出席した際の個人的な印象だった。
一般企業を顧客に抱えるソリューションプロバイダは、今期の業績についてそれほど悲観的な見通しを立てていない。一方で、大手ソリューションプロバイダの協力企業として成長してきた企業は厳しい決算が続くと考える傾向が強いのである。
一般企業を顧客にかかえる、ある大手ソリューションプロバイダの社長は「当社の顧客もIT投資を大幅に削減している。ただし先方のトップクラスと話してみると、2009年度後半には投資が回復してきそうだ」と話していた。
強気で知られる社長ではあるが、単なる空元気とは思えなかった。やはり顧客との直接の信頼関係がある企業は強いと感じた。
もう少し規模は小さいが、プライム(元請け)をモットーにビジネスを拡大してきた中堅ソリューションプロバイダの社長も、今期についてはそれほど心配してなかった。この会社はパッケージソフトの導入に強みを持つのだが、IT投資に顧客が敏感になる時代は、ある意味でチャンスだととらえている。
逆に下請けからの売り上げに依存するソリューションプロバイダの社長は、手綱を引き締めることに懸命だ。「取引先に実績が評価され、当面の業務は昔よりも多いくらいだが、継続して単価の引き下げを要求されている。当社も内製率を高めるなどしてコスト削減を徹底し、収益力を高めていきたい。たとえ景気が回復してきたとしても、これまでのような爛熟期のような状況には二度と戻らない」。
このソリューションプロバイダは、メーカー系でも大手企業の子会社でもない独立系企業である。社長はITサービス業界の動向に深く通じる人物だ。その人物の言葉だからなおさら気にかかった。
進む内製化と外注費削減
もちろんシステムの開発を依頼する一般企業と取引すればすべてがうまくいくわけではない。開発を請け負えば、赤字プロジェクトを抱えて、経営が悪化する可能性がある。
それでも一般企業との直接取引を拡大すべきだと考える。大手ソリューションプロバイダの下請け業務を中心にしたビジネスは、強い逆風が吹く可能性が高いからである。
2008年度の決算が減収減益に終わっただけでなく、2009年度についても、増収を予想するソリューションプロバイダは少ない。売上高が下がっても利益を確保するため、多くの企業が徹底した支出の削減に取り組んでいる。
多くのソリューションプロバイダが利益確保の切り札として進めているのが、内製化率の向上と外注費の削減である。既に2008年度に、年間で10パーセントを超す外注単価の引き下げを実施した企業もある。そうでなくても、顧客からの受注が減少すれば、元請けの外注は減る。
単価の引き下げと同時に起こっているのが取引社数の削減だ。超大手のソリューションプロバイダのなかには、2年ほどで直接取引する下請け企業を4分の1に減らしたところもあるという。
大手ソリューションプロバイダを中心に、安価に技術者を調達できるオフショア開発を加速させる動きも出てきた。オフショア開発が、技術者の単価を引き下げる、中長期的なトレンドだということは論を待たない。