新型インフルエンザの発生により,パンデミック(世界的な大流行)の脅威が現実のものになった。空港などにおける“水際対策”の報道をみるたびに,「もし自分だったら,仕事はどうなるのだろうか」と考えてしまう。感染時はもとより,感染者の近くに座っていても「濃厚接触者」として拘束されるからだ。BCP(事業継続計画)におけるシステム対応では,基幹データのバックアップなどが強調されるが,自宅やホテルからも,普段と変わらぬ仕事ができるクライアント環境について,再考する必要がある。

 5月12日午前1時時点の,新型インフルエンザの感染者数は全世界で5223人,死者は61人を数える。感染が確認された国・地域は31で,米国が2618人,メキシコは2059人に上る。日本ではカナダから帰国した4人の感染が確認されたものの,水際対策や追跡調査が効いているのか,幸いにも感染拡大には至っていない。

 しかし,空港などでの水際対策や,その後追跡調査の報道をみるたびに気になるのが,「自分がもし,その場に居合わせたら」ということだ。何時間ものフライトの後,やっと地上に降りたと思ったら,そこからさらに1時間前後の機内検査が終了するまで座席に座っていることの辛さもさることながら,「感染の疑いがあります」とか「感染者の近くにおられたので留まってください」と言われた瞬間には,目の前が真っ暗になりそうだ。みなさんはどうだろうか?

 さらに最近は,各企業の内部統制やBCP対策が整備されてきているので,「海外渡航者は10日間,出社禁止」や「米国からの来訪者とは社内で接触しない」といったリスク回避策がすぐに発令される。リスクマネジメントの観点からいえば,日本企業の対応も相当に進展したということになるのだろうが,現場の感覚からいえば,「そんなことを急に言われても困る」というのが本音ではないだろうか。隔離・拘束される側だけでなく,彼らの仕事を引き継ぐ側にすればなおさらだ。

業務の属人化問題だけにはとどまらない

 上記のような対策を聞くたびに疑問に思うのが,出社できなくなった社員とのコミュニケーションや情報共有のための仕組みが十分に用意されているのか,ということだ。

 もちろん,電話やメールくらいはできるだろう。だが,例えば会社のパソコンやサーバーに保存した資料や,作成途中の文書などを取り出したり,仕事を引き継いでくれる同僚に渡したりが可能なのだろうか。「あの資料さえ手元にあれば」「この文書をみてもらえれば」といった場面がきっとあるはずだ。しかし,セキュリティ対策が進む現状では,他人のパソコンにアクセスするのは難しい。

 筆者がこうしたことを気にするのは,これまで個人情報保護や内部統制強化を理由に,ノートPCの持ち出し禁止やUSBメモリーなどの利用制限が,技術的な検証なしに,一気に浸透してしまった,との印象があるからだ(関連記事:『若きSEは“使えないノートPC”を丹念に磨く』)。

 内部統制で先行する欧米企業の担当者が,重たそうな大型のノートPCを持ち出し,我々にプレゼンしてくれる場面をみる度に,こうした印象は強くなる。