一方の自治体クラウドは、なかなか、その正体が見えにくい。総務省の補正予算の資料に目を戻すと、「電子行政クラウドの推進(霞が関・自治体クラウド(仮称)及び国民電子私書箱構想の推進)」の内訳は次のようになっている。

・ワンストップの行政サービスの実現に向けた国民電子私書箱構想の推進 30.0億円
・クラウド・ネットワーク技術の研究開発等 156.3億円
・自治体クラウドの開発実証 20.0億円

 3番目の「自治体クラウドの開発実証」については、次のような説明が付いている。

 全国3箇所にバランスよく分散配置されたデータセンターに、都道府県のリーダーシップの下、自治体の業務システムを集約し、クラウド・コンピューティングにより、データ連携、バックアップ、負荷分散など効率的な連携運用を実現

 これを見ると、3カ所に設置するデータセンターに市町村レベルの情報システムを集約する取り組みのようである。一見すると、霞が関クラウドと同じような目的・効果のように思えるが、実はその意味合いや実現へのハードルは全く異なる。

 霞が関クラウドの場合は、異なる業務(サービス)を手がける複数の団体(中央省庁)がシステムを集約するので、アプリケーションレベルまでは共同化の対象とはならないだろう。そういう意味では、ユーザー側(中央省庁)から見ると、霞が関クラウドの実態はシステム運用・保守のアウトソーシングということになる。

 これに対して、自治体クラウドの場合、同じような業務(サービス)を手がける団体(市町村)が対象となるので、アプリケーションレベルでの共同化も可能である。自治体クラウドは、自治体業務のシェアード・サービス化だととらえることができる。

 こうした共同化のレベルの違いのほかに、対象となる団体数の違いもある。霞が関クラウドの場合は1府12省庁であるが、自治体クラウドは1000を超える市町村が対象となる。

 物理的にも情報伝達面でも政府に近い中央省庁であれば、システムの集約は可能かもしれない。しかし、自治体のシステムの集約、それもシェアード・サービス化を実現することは可能なのだろうか。

 シェアード・サービス化を実現するには、業務の標準化が欠かせない。単一の都道府県の中だけであれば、ある程度の標準化は可能だろう。実際、都道府県単位で情報システムの共同センターを設置している例も多い。しかし、都道府県をまたがった業務の標準化を実現することは困難だろう。民間企業でさえ、グループでシェアード・サービスを導入するプロジェクトは容易ではないのだ。

 シェアード・サービスととらえると、自治体クラウドのメリットは計り知れないほど大きい。ハードウエアやソフトウエアなどのシステム・コストだけでなく、事務コストや人件費も大きく削減できるし、内部統制を効かせやすいというガバナンス上のメリットもある。ただし、実現へのハードルは霞が関クラウドとは比べものにならないほど高い。

 先に引用した総務省の文書には、「都道府県のリーダーシップの下」という文言が含まれている。自治体クラウドの主導権は、都道府県に下駄を預けた格好である。国・政府のレベルで、試算結果などで大きなコストメリットがあることを示さなければ、クラウドへ乗り出そうという自治体は出てこないのではないだろうか。