「放送と通信の融合」というと,通信回線で映像コンテンツを配信するIPTVだとか,ホームサーバーに蓄積したコンテンツを視聴するサーバー型放送のように,これまでとは違う新しい枠組みで語られることが多い。仕組みや技術の面では画期的でも,爆発的に普及する気配がもう一つ感じられないのは,そうしたサービスを利用者目線で見たときに,従来のテレビに対する「+α」の部分がぼんやりしていたり,ハードウエアの買い替えが必要で利用者にとって「遠すぎ」たりするからではないだろうか。

 常々そんな違和感を抱きながらも「放送と通信の融合」と名の付くサービスに注目してきた記者だが,最近一つ,しっくりくるサービスに出会った。カカクコムが運営する商品価格の比較サイト「価格.com」で提供されている「テレビ紹介情報」コーナーだ。これは,在京キー局5社が放送しているテレビ番組について,番組内で紹介された商品や飲食店などのショップ,旅行などに関する情報をほぼリアルタイムにひたすら提供しているサービスである。単なる情報提供に終わらず,カカクコムが提供するサービスで該当する商品や飲食店,旅行などを紹介している場合は,その商品紹介ページへのリンクを張っているのが“ミソ”だ。利用者はそのリンクをたどって,テレビで見た商品を購入できるようになっている。

『テレビで見たあの商品が欲しい』というニーズは意外に大きい

 身内の話になるが,妻はテレビ番組が大好きである。おまけに通信販売も大好きである。だからテレビ番組と通信販売の組み合わせが,特定の視聴者層に絶大な効果を持つことを身を持って経験している。妻は数年前からインターネットの通販サービスを利用し始め,テレビ番組で気になる商品が紹介されると,その場でノートパソコンを開いて検索するようになった。

 同じことを考える人は多いようで,「紀州梅うどんのページにアクセスが集中して開けない」,「じゃばらドリンクがもう売り切れた」といった具合に,テレビ番組で紹介された商品に明らかに注文が集中する現象を何度も目の当たりにしてきた。こうした背景があったので,価格.comがテレビで紹介した商品の情報を扱うと聞いて,Webサービスの利用促進効果が高いサービスになると,しっくりきたのである。

 パソコンやAV機器など,電気製品に関する情報が多い印象の価格.comだが,実際はDVDや化粧品,自動車などの情報も取り扱っている。また,運営会社のカカクコムは,飲食店などのグルメ情報を提供する「食べログ.com」,宿泊予約サイトの「yoyaQ.com」,映画情報サイトの「eiga.com」などのポータル事業も手がけており,テレビ紹介情報はこうしたサイトとも連携している。テレビ紹介情報は,さまざまな商品情報を扱うカカクコムと非常に相性の良いサービスと言える。実際,2008年8月27日にテレビ紹介情報の提供を開始して以降,2008年9月から2009年2月までの半年間で価格.com全体のアクセス数は「約2割伸びた」(カカクコムの結城晋吾上級執行役員)という。

商品を“ながら購入”できる携帯電話は,テレビと組み合わせ抜群

 さらに2009年3月4日には,携帯電話機向けの商品比較サイト「価格.comモバイル」でも「テレビ紹介情報モバイル版」を開始した。これも記者には合点がいく展開である。多くの人がいつも肌身離さず持ち歩いている携帯電話機は,パソコン以上に「この商品が今すぐ欲しい」という欲求に素早く応えられる機器だからだ。

 カカクコムも,テレビ紹介情報サービスを企画した段階から携帯電話機への展開は考えていたという。今回の仕組みは,これまでのテレビ視聴に対して明確な「+α」のサービスを提案し,かつ手持ちのハードウエアの組み合わせで実現できる「身近な」サービスとして,放送と通信を融合したサービスの好例と言えるのではないだろうか。

 ただ,テレビ紹介情報に一つ課題があるとすれば,コンテンツを提供する放送事業者にリターンがないことだ。しかも単純にリターンがあればいいという問題ではなく,商品紹介に対するインセンティブが高過ぎると商品を売らんかなとした番組構成になる恐れがある上,番組に対する視聴者の評価も変わる可能性がありバランスが難しい。