記者は仕事がら,Linuxディストリビューションの新版がリリースされるたびに,パソコンにインストールする作業を繰り返している。

 直近では「Ubuntu 9.04ベータ」に始まり,「SUSE Linux Enterprise 11」や「Debian GNU/Linux 5」,Netbook向けの「Easy Peasy」など,有名無名を問わず数え上げたらキリがない。評価用のパソコンは,常にマルチブート状態だが,1台では足りないため,仕事用のWindowsパソコン上で仮想PCが6台稼働している。

 新版のLinuxをいじる作業は楽しいのだが,ユーザー・インタフェースについては食傷気味である。

 Linuxディストリビューションの多くは,「ウインドウ・マネージャ」や「ファイル管理ソフト」などのソフトウエア群をひとまとめにした「統合デスクトップ環境」でGUI(Graphical User Interface)機能を実現している。最も普及している統合デスクトップ環境が「GNOME」(GNU Network Object Model Environment)で,FedoraやUbuntuなどが標準搭載している。SUSE Linuxが採用している「KDE(K Desktop Environment)」も実績がある。ディストリビューションごとにアイコンやデザインは多少違うものの,統合デスクトップ環境が同じだと,メニュー構成は似たり寄ったりなのだ(写真1写真2)。

写真1●Ubuntuのメニュー構成
写真1●Ubuntuのメニュー構成
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写真2●Fedoraのメニュー構成
写真2●Fedoraのメニュー構成
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 統合デスクトップ環境のおかげで,さまざまなLinuxをいじるたびにメニュー構成を一から習得する必要がないため助かっている。その一方で,ユーザー・インタフェースを見て,驚きや感銘を受ける機会は皆無に等しかった。

ダサかっこいいADRIANE

 そんな矢先,あるLinuxのユーザー・インタフェースを見て久しぶりに衝撃が走った。2009年2月に公開された「KNOPPIX 6」が備えている「ADRIANE」(Audio Desktop Reference Implementation And Networking Environment:エイドリアン)である。

写真3●ADRIANEのメニュー画面
写真3●ADRIANEのメニュー画面
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写真4●テキスト・ベースのWebブラウザ「elinks」で「Linux Online!」サイトを表示した例
写真4●テキスト・ベースのWebブラウザ「elinks」で「Linux Online!」サイトを表示した例
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写真5●ファイル・マネージャ「Midnight Commander」
写真5●ファイル・マネージャ「Midnight Commander」
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 衝撃を受けたのは,ADRIANEがキャラクタ・ベースのインタフェースを採用していたからだ(写真3)。キーボードのカーソル・キーでメニューを選択すると,Webブラウザやメールなどのアプリケーションが起動する。

 「Linuxユーザーは端末画面でコマンドを入力しているのだから,キャラクタ・ベースなんて珍しくないのでは」と思うかも知れないが,ADRIANEの場合,搭載しているアプリケーションも“非GUI”なのだ。テキスト・ベースのWebブラウザ「elinks」で見る「Linux Online!」のWebサイトは,FirefoxやInternet Explorerで見るソレとまるで別物に見える(写真4)。

 ADRIANEは,派手なGUI画面に見慣れたユーザーに,新鮮かつクールに映る。見かけだけではない。ADRIANEは,キーボードだけでサクサク操作できるファイル・マネージャ「Midnight Commander」(写真5)を備えており,GUIがまどろっこしく感じているユーザーならきっと気にいるはずだ。

 ADRIANEは本来,目が不自由なユーザー向けのインタフェースで,画面上のテキストを音声で読み上げる機能が標準で有効になっている。だからこそテキスト・ベースのデザインを採用しているのだが,この音声読み上げ機能がとっても独特なのだ。例えば,「Shell」メニューで端末画面を表示してコマンドを打ち込むと,打ち込んだコマンドを読み上げてくれる。この読み上げる声が「機械的」なのである。

 機械が読み上げるのに“機械的”とはナンセンスだが,人気の音声合成ソフト「初音ミク」などに慣れているユーザーがADRIANEの音声を聞いたら,少なからず衝撃を受けるだろう。例えるなら,20年以上前のSF映画に出てくる宇宙船の操縦席で,自動操縦機能を備えたコンピュータと会話している気になる。あえてダサかっこよく作ったとしか思えない。

写真6●KNOPPIXのGUIデスクトップ「LXDE」
写真6●KNOPPIXのGUIデスクトップ「LXDE」
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 ちなみに,KNOPPIXはADRIANEとは別に,GUIのデスクトップ「LXDE」を備えている。GUIを使いたい人はそちらを使うこともできる(写真6)。

 なお,デフォルト状態のADRIANEは日本語に対応しておらず,日本語を入力したり日本語のWebサイトは閲覧できない。ADRIANEを日本語に対応させる方法については,日経Linux5月号(4月8日発売)で詳しく紹介しているので,興味がある方は書店でパラパラめくっていただきたい。