Rackable Systemsの売上高が2億4743万ドルということは単純計算すれば、Amazon.comは2008年にRackableから8660万ドルのハードウエアを購入したとみなせる。Amazon.comが2009年1月29日に発表した2008年度決算(2008年12月期)のキャッシュフロー計算書によれば、同社が2008年に費やした固定資産(社内で使用するソフトウエアやWebサイト開発を含む)の購入額は3億3300万ドルである。固定資産には当然ながらIT分野以外への設備投資も含まれる。その26%がRackableに投じられているということは、Amazon.comのサーバー調達の大半がRackableの製品だと推測できる。

 Rackableのサーバー出荷台数は、2008年度が6万8490台、2007年度が10万2951台である。ということは、Amazon.comがRackableから購入したサーバー台数は、概算で2008年度が2万4000台、2007年度が1万6000台となる。サーバーの耐用年数が4~5年ということを考えると、Amazon.comが運用するサーバーの総台数は、7万~10万台程度ではないだろうか。一説には300万台のサーバーを運用中といわれるGoogleや、シカゴ1カ所で50万台のサーバーを運用しようとしているMicrosoftに比べれば決して多いわけではない。

 クラウド・コンピューティングの熱心な信奉者である米Salesforce.comが運用するサーバーの台数はさらに少ない。同社が2009年3月23日に米国ニューヨークで開催したアナリスト向けの説明会(説明会の模様は、同社がYouTubeにアップロードしている)によると、同社が運用するサーバー台数は「5000台以上」でも「1万台以上」でもなく、実は「1000台未満」なのだという。同社の年間売上高(2008年2月~2009年1月期)は10億7700万ドルである。Salesforce.comでは1台のサーバーで年間1億円以上を売り上げている計算だ。

2種類のアプローチがある

 結局、クラウド・コンピューティングの主要事業者といえども、数十万台~数百万台のサーバーを運用しているのはごくわずかだということが分かる。サーバーの規模に関しては米Forrester researchのアナリストが「サーバークラウドとスケールアウトクラウドは別物」と指摘している。同じ「クラウド・コンピューティング」と言っても、従来型のアプリケーションをホストできる小規模な「サーバークラウド」と、巨大なデータ量の処理に特化した「スケールアウトクラウド」があるというのだ。

 この見方を取り入れれば、1000台未満のサーバーですべてをまかなっているSalesforce.comは「サーバークラウド」的なアプローチであり、GoogleやYahoo!、Microsoftは「スケールアウトクラウド」的なアプローチだと言えるだろう。Amazon.comは規模的にはその中間にあるが、ショッピングカートで使用しているというピア・ツー・ピア型データ処理技術「Amazon Dynamo」などは、「スケールアウトクラウド」的なアプローチである(Amazon Dynamoに代表されるスケールアップ技術に関しては、徹底理解「Amazonクラウドサービス」で、NTT未来ねっと研究所の井上武氏が解説する)。

 もっとも、日本市場における年間サーバー出荷台数は60万4000台(IDCジャパン調査、2008年)である。Amazon.comやSalesforce.comが運用しているサーバー台数は、日本企業から見ると、圧倒的な規模である。クラウド・コンピューティングを考えるたびに、「とんでもないことになってるな」と思わずにいられない。