ITproの読者であれば、きっと「エクスペリエンス(=experience、経験)」という言葉を耳にしたことがあるだろう。マイクロソフトのOS「Windows XP」の「XP」も、エクスペリエンスを表している。Web上のサービスによってWindowsが利用者に提供できる豊かな経験という意味を込めて名付けたものだ。

 このエクスペリエンスという単語はIT分野に限らず、マーケティング用語としても広く使われている。米国の経営学者であるバーンド・H・シュミット氏などの識者によれば、「顧客の経験」すなわち「カスタマー・エクスペリエンス(=Customer Experience)」は、「購入・利用する時点やその前後のプロセスで、顧客の内面に影響を与える価値を備えた経験」を意味する。マーケティング関連書籍では、Customer Experienceを「顧客経験価値」と訳すことが多いようだ。

 ランニング・シューズを例に取ると、靴を履いて長距離を走れたという経験がもたらす爽快感が当てはまる。カメラであれば、それを携えて旅行を計画する際のワクワク感や、写真の出来栄えを褒められた瞬間のうれしさなどがそうだ。

ネットを駆使して可視化する

 最近になって、こうした顧客経験価値をネットを駆使して“見える化”しようという動きが国内の一般企業の間で増えている。顧客とのきずなを深めるうえで、顧客同士で経験価値を共有してもらったり、ネットならではの新たな顧客経験価値をサービスとして提供したりすることが有効と見られつつあるためだ。

 取り組みの一例は、体組成計大手のタニタ(東京・板橋)である。子会社のタニタヘルスリンク(東京・千代田)を通じて運営するWebサイト「からだカルテ」上で、2007年3月から取り組み始めた。同サイトを運営する目的は、「体組成計や歩数計などを使い続けることに楽しさを感じられるような顧客経験価値の提供」だ。

 この考え方でタニタがネットで仕掛けたイベントの代表例が、歩数計のユーザーを対象にした仮想ウオークラリー「Walk around the world」である。Walk around the worldに参加するには、歩数計で記録したデータを送信する。すると、歩数が増えるにつれ、世界各地の観光地などを仮想的に体験できる。

 観光名所がウオーキング用ルートになっており、1万~10万歩を目安にしたチェック・ポイントを設けられている。チェック・ポイントの歩数に到達するたびに、風景の写真や観光地を紹介する文章が切り替わる。顧客は歩数計を利用することで、あたかも観光地を巡っているかのような楽しさを味わえる。