ITproが総力を挙げて取り組んでいる「製品&サービス・データベース(製品DB)」をご存じだろうか。今月からは「業務アプリケーション」編を順次公開している。ERP(統合基幹業務システム)パッケージをはじめ,会計や販売管理,生産管理,人事・給与などの基幹業務を支援する主要パッケージを中心に91シリーズ/197モデルの情報を参照できる(2009年3月18日現在)。もしもご覧になったことがないのであれば,ぜひ一度アクセスして,自分なりの比較表を作ったりして試してほしい。

 最初から製品DBの宣伝めいて恐縮だが,本題は別にある。この業務アプリケーション編は,筆者を入れて総勢7人のメンバーで製品の選択から執筆まで担当した。多くのベンダーが製品DBに協力してくれた上に,ITpro側のメンバーも経験者ぞろいであり,取りまとめ役を務めた筆者としては,かなり質の高いデータベースが出来上がったと自負している。

 しかし,“理想型”にはまだ程遠い。例えば,製品DBのラインアップ。業務アプリケーションの範ちゅうに含まれるのは,いわゆる基幹系パッケージだけではない。例えば,BI(ビジネス・インテリジェンス)/DWH(データ・ウエアハウス)用ソフトウエアやグループウエアも入る。基幹系パッケージも細業種対応の製品を含めれば,それこそ星の数ほどあるだろう。

 実際,製品を選択する段階では,BI/DWHやグループウエアに属する製品もリストアップしていた。しかし,7人がかりとはいえ,こなせる製品数には限りがある。DBの公開日も決まっていた。このため当初は,最もニーズが高いと想定されるERP周りの製品を中心にせざるを得なかった。

 でも,製品DBのラインアップは少しずつ拡充を続けている。楽観的かもしれないが,そう遠くない時期にそれなりの質・量へと成長するだろう。

 それよりも筆者が今回,業務アプリケーション編について最も残念に思っているのは「価格の壁」を打ち破りきれなかったことだ。

価格を明確にできない理由も分かるが・・・

 ERPパッケージのことを多少でもご存じの方ならお分かりのように,一般にERPパッケージの価格は他のソフトウエア製品と比べても,あまり明確とは言えないケースが多い。「1ユーザーあたり●●円から」「最小構成で●●円から」などとうたってはいるが,あくまで参考としての役割にとどまっている。

 それでも何らかの価格情報が公表されているのであれば,まだマシである。大企業向けの製品ほど,価格を明らかにしなくなる。実際,大企業向けERPパッケージの2強と呼んでいいSAPジャパンの「SAP ERP」と日本オラクルの「Oracle E-Business Suite」は,どちらも価格を公表していない。

 製品を開発・販売するベンダー側に様々な言い分があることも分かる。「価格がないわけではない。価格表も社内には存在する。しかし,あまりに複雑で一つの価格として公表しにくい」。あるベンダーはこう話す。

 確かに,ERPパッケージ,とりわけ大企業向けの製品はソフトウエアの中でも非常に複雑な構成をとり,数多くの機能を備えている。使われ方もバリエーションに富む。

 どの「業種」で,どれだけの「従業員数」の企業が,どれだけの「同時ユーザー」で,どの「機能/モジュール」を,どんな「環境(サーバーのOS/プロセサ数/台数,データベースの種類/数,ミドルウエアの種類/数,Web型かクライアント/サーバー型か,など)」で使うか,その際にどの程度「アドオン(追加開発)」を実施するか…。ERPパッケージでは価格を左右するパラメータの種類がそもそも多い。しかも,企業規模が多くなればなるほどこれらのパラメータのブレが大きくなる。これを一つの価格を示すのは難しいかもしれない。

 まして,大企業向けの製品は購入すればそのまま使えるものではない。業務プロセスの見直しや既存システムとの連携,業者や業務固有の機能の追加,導入教育といったサービスを同時に提供するケースが大半である。製品とサービス込みの提供形態が当たり前となると,製品だけの価格を公表する意味合いは薄れることになる。

 いくつかのベンダーは「数字の一人歩きを警戒している」とも話す。大企業向け製品は必然的に絶対額が高くなる。億の単位を超えるケースも珍しくない。ここで「●●という条件で,約1億2000万円」などと公表すると,前提条件は消えてしまい「1億2000万円」という数字だけが流通する可能性もある。

 とはいえ,である。それがはたして「価格を明確にしなくてよい」理由になるのだろうか。典型的な導入の仕方では,どの程度の金額になるのか。数万円台で済むのか,数十万円なのか,数千万円なのか,億を超えるのか。その程度でもいいので,価格に関して何らかの手だてとなる情報を公表するのは,「製品」を提供する側の務めではないか。筆者はそう考えている。

 価格を公表しないと,あらぬ疑いをかけられてしまう可能性もある。要は「出さない」のではなく,自社にとって不利益をもたらすために「出せない」のではないか。例えば顧客ごとに価格を変えている(ダンピングまたは上乗せしている)のではないか。価格を公表しない企業に対しては,ついこんなふうに勘ぐりたくもなってしまう。