先輩と後輩が対話するETロボコン

 その後筆者は、オールマン氏の論をIT業界の経営者らに何度か話したが、ほとんどが賛同してくれた。中には、「私もラジオを組み立てたのが理科系進学のきっかけだった。小学生や中学生に、ものをばらしたり作ったりする機会を与えたい」と身を乗り出してきた人もいる。

 こうした流れの中で、筆者が興味をもっているのが、組込みシステム技術協会(JASA)が主催する「ETロボコン」。レゴ製ブロック型ロボット「マインドストーム」を素材に、UML(統一モデリング言語)などで分析・設計したソフトウエアの技術を競う。

写真2●ETロボコン2008全国大会後に会場で開かれた審査員による審査結果解説の様子
写真2●ETロボコン2008全国大会後に会場で開かれた審査員による審査結果解説の様子
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 ETロボコンに筆者が惹かれるのは、それが単にレース結果だけを問うのではなく、その結果を導くために作成したモデルの“美しさ”や、それを伝えるための表現力などを含めて、評価しようとしているからだ。

 そのために、ETロボコンでは、参加者に対する事前教育を実施。さらには、決勝大会終了後に会場内で審査員が各チームをどう評価したかを解説したり、ミニ講習会を開いたりといった“事後教育”まで実施する(写真2)。ミニ講習会の参加者は、審査員でもあるカリスマ技術者に、まるで恋人を見るかのような熱い視線を送るなど、その一体感はうらやましくも感じるほどである。

今一度、仕組みから考えよう

 ETロボコンのミニ講習会と同じ雰囲気は、富士通・沼津工場でのインタビュー時にも感じられた。OBと現役の間に広がりつつある、師弟愛のようなものだ。

 例えば、現役の濱田忠男氏(富士通特機システムフィールド統括部サポート・サービス部サービス推進課長)が、「OBの方が身体で感じ取っている何かを知りたい」と言ったのに対し、OB諸氏は「あくまでもコンソールに表示されている内容がすべて」と断言。それでも濱田氏が「音でも判断しているでしょう」と切り返えせば、OB諸氏も軽くうなずくといった具合である。

 延命プロジェクトは、定期的とはいえ3カ月に1回程度しか実地の機会はない。しかも、現役の技術者は日常業務では全く触れることがないリレー式コンピュータが素材だけに、技術継承とはいえ、即効力はないかもしれない。ETロボコンも、審査員クラスの技術者とは直接に対話できない参加者のほうが多いのだろう。

 それでもなお、世代を超えて、コンピュータやシステムの仕組みについて対話する機会が増えることを期待したい。日常業務の中で、全体的な仕組みを意識する機会はこれからますます減少するに違いない。だからこそ、先達が経験した全体感や大規模感を疑似体験することは不可欠だ。先達と対話した世代は、また次の世代と対話しなければならない。

 そして重要なことは、世代を超えた対話の中で、むしろ先達とされる側が、デジタルネイティブとも呼ばれる若い世代の疑問に答えるために謙虚になると同時に、これまでの常識を疑うことだろう。でなければ、「仕組みを考える」という“難題”に挑むことの楽しさは伝えられない。