“メインフレーム”の知恵はクラウドでも役立つ

 筆者がFACOM128Bを見たいと思ったきっかけの一つは、最近のクラウド・コンピューティング・ブームである。FACOM128Bや、かつてのメインフレームのような大型機や大規模環境の設計段階で先人たちが交わしてきた議論は、クラウドの時代にこそ生きるのではないか。筆者はこう考えている。

 というのも、いま“所有から利用へ”といったユーザーのコンピュータ環境からみた議論が盛んだが、クラウドを実現するためのテクノロジに目を向けると、テクノロジの進展方向が大きく逆転するのではないかと強く思うからだ。すなわち、これまでの水平分業が垂直統合に向かい、そこには新たな“メインフレーム”が構築されようとしているのだ。

 実際、グーグルやアマゾンが提供するクラウド(あるいはサービス)の強みは、独自のテクノロジによって生み出されている。いわゆるオープンシステムのデファクトスタンダードではない。

 これは、沼津にあるリレー式コンピュータFACOM128Bも同じである。クラウドで話題になる信頼性や拡張性といった議論が、50年以上前にも交わされていたとみれば、先人たちが何をどう考えてきたのかを、改めて知りたいと感じるのは自然なことだろう。

ITが加速するIT離れ

 もう一つの理由は、「基本的な仕組みを知りたい」という思いが最近、高まる一方だからだ。ITが進歩し、筆者が十分に理解できなくなっているということがあるかもしれないが、ITのサービス化が進む中で、テクノロジを考える側よりも、その利用方法・マネジメント方法を考える側のほうが重要視される風潮が強まっている。経営効果、投資対効果が求められているからだ。

 そしてまた、それを加速しているのもIT自身である。アプリケーションやシステムそのものを「サービス」として隠ぺいするSOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方に代表されるように、ITはその存在をみずからクラウドあるいはプラットフォームの中に隠ぺいしようとしている。ITが進めば進むほど、ユーザーはユーザーに徹すれば良いわけだが、ITの存在価値は伝えづらくなる(関連記事:「IT技術者よ、テクノロジを語っているか」)。

 かつて、電子メールの父とも呼ばれるエリック・オールマン氏は、理科系離れが起こる背景を携帯電話を例にこう説明したことがある。

 「私が小さな頃の時計は機械仕掛けで、その仕組みに興味をもてば、分解したり組み立てたりしながら中身を学ぶことができた。それが今ではモジュール化が進み、仕組みを知ろうにもそのすべがない。携帯電話が壊れても、自分で直そうとは思わないだろうし、直せない。仕組みを見いだすことの楽しさを知らない人が、仕組みを考えることを仕事には選ばない」