最近,著者さんや同僚と「飛行機の機内誌が読まれる理由」についてよく話をする。飛行機の座席前のポケットに入っているアレだ。写真が高品質で,文章も読みやすいので,筆者は結構好きである。筆者を含めて機内誌を手に取る人は多いようだ。

 なんで機内誌は読まれるのか。端的にいえば需要と供給だろう。フライト中はヒマになる。ヒマになると,なにか読み物が欲しくなる。ちょうど座席の目の前に手ごろな読み物がある。それを手にとって読む,という仕組みである。

 “機内”という環境ではコンテンツの需要が高く,供給は制限されている。だから機内誌は読まれるし,あのような内容と品質で作られているという話である。同じものが書店に置いてあっても,きっとそれほど読まれない。もちろん,だからダメだという話ではない。

 さて,同じ需要と供給の思いを,Web上の様々な文章に向けてみる。需要は「気分次第」,供給は「過剰」の世界だ。Web上の文章に,読者は何を求めているか。何を届けられるか。どんな形で,どんなタッチで届ければよいか---そんなことを考える。

 以下は,筆者が考えたことのまとめである。紙の雑誌では4ページくらいの長さになる。ITproでありながら,あまりITの話にはなっていないし,論旨の多くは筆者の感性に依存している。それでもよければ,お付き合いいただきたい。

違いをまとめると「刹那的」

 一口にWeb上の文章といっても,日本語のものだけでも様々ある。「Rubyリファレンス・マニュアル」も「あたし彼女」もWeb上の文章だ。議論は立場や興味範囲で発散しがちなので,最初に筆者のキャリアを簡単に紹介したい。

 雑誌記者を約5年,雑誌編集者を約7年務めたあと,ITproに異動して2カ月になる。雑誌からWebの編集部に移って,筆者のWeb上の文章を見る目は変わった。自分でそれを読むだけでなく,自分以外の人たちがいかに読み,何を思うかを想像する時間が増えた。

 雑誌や書籍を作るときには,ほかの人がどう読むかを普通に考えていた。Webという媒体でも同じことをしたわけだ。2カ月ほどやってみた結果,雑誌のそれと比較して,気になった点が三つあった。

  • 長い文章を読むストレスが基本的には大きい
  • 短いインタラクションは,やたら気持ちよい
  • 読んだあと,それについて考える時間が短くなりがち

 三つをまとめると「刹那的」となる。一つ目と二つ目はやや似ているかもしれない。これらについて,順番に見ていくことにしよう。

 ちなみに,紙でもWebでもあんまり変わらないと感じたポイントもたくさんあった。例えばタイトルの重要さ,ちょっとした品質がもたらす記事全体への信頼感,執筆者の読者を想う気持ちの届き具合---などである。この記事では違いに焦点をあてていく。

長文は読みにくい

 Webで様々な文章を読んでいて真っ先に気付くのは,長い文章が読みにくいことである。例えばニコニコ動画開発記(上)のように,紙の雑誌で6ページ程度の軽く読める感じに仕立てたはずの文章でも,Webブラウザの中ではけっこう読みにくい。

 原因がITproのレイアウトにあるのではと考え,違うレイアウトをいくつか試してみた。MediaWikiでウィキペディア風にレイアウトしたり,はてなダイアリー風にレイアウトしたり,ITmediaさんやCNETさんのCSSを借りてきて実験的に文章と図を流してみたりした。しかし,あまり変わらない。確かに読みやすさやアイキャッチに変化はある。でも,筆者が望む読みやすさにはほど遠い。

 原稿を紙で読む場合とWebで読む場合の違いを議論しようとすると,反射原稿と透過原稿の違いをはじめとして,たくさんのポイントがある。きりがないので,とりあえず別の方向に話を進める。

 Web上には,そんな読みにくさを超えて読む長文もあることである。書かれている内容への興味がつのれば,読者は,読みにくさを超えて読み続ける。例えば先日「記者のつぶやき」として公開した「本当のことを言う」である。筆者は「えらい長いなー」と思いつつ全部読んだ。面白かったが,「面白いのに長いよ!」なんて混乱した怒りが芽生えてくる。