社員が首から社員証を提げている。最近ではよく見られる光景だ。あるシステムインテグレータでは,社員証のストラップに色が付いている。しかも人によって,その色は同じだったり違っていたりする。色の違いは何を示しているのだろうか。

 そのシステムインテグレータはNTTコムウェアである。同社は8年近く,社員のスキルアップとスキルの“見える化”に全社を挙げて取り組んできた。その成果が,ストラップの色の違いに表れているのである。

「プロって何だろう?」

 今,自分のスキルはどの程度のレベルにあるのか。これからどんなエンジニアを目指せばよいのか。技術や手法が多様化しているIT業界では分かりにくい。

 リファレンスとして経済産業省が策定したのが,ITスキル標準(ITSS)である。ITSSについては,すでにご存じの方が多いだろう。様々な議論はあるものの,ITSSを基にスキルマップを作成し,自社の人材育成に生かすIT会社はここ数年で増えつつある。NTTコムウェアもその1社だ。

 同社が他の会社と一線を画しているのは,スキルマップを策定しただけでなく「ComCP」と呼ぶスキル認定制度を「対象者全員に取得させた」(総務人事部 HCMセンタ 主査 井口隆宏氏)ことである。

 ComCPの認定をスタートしたのは2001年。当初は開発系のエンジニアのみだった。2004年に全社展開,2006年にグループ会社展開を経て,2009年1月末にようやく対象者全員の認定が終わったという。現在ではNTTコムウェア・グループの社員8350人(2009年1月末時点)のうち,スタッフ部門などを除いた6100人全員のスキルがComCPのスキルマップにマッピングされている。

 NTTコムウェアは,1997年にNTTの通信ソフトウェア本部と情報システム本部が独立して生まれたIT企業だ(当初の社名はNTTコミュニケーションウェア)。規模だけを見ると,売上高2550億円(2008年3月期)の中堅システムインテグレータだが,ERP(統合基幹業務システム)パッケージの大規模導入なども手がけている。

 その同社は「このままでは人材を育てられないという悩みを抱えていた」(総務人事部 HCMセンタ 小林雅敏氏)という。そこで2001年ころから,目標設定,スキルアップ,成果の確認など,様々な人材育成の制度を打ち立てていった。基本的な考え方は,それぞれのエンジニアが「自分でプロになる」ということである。そのためのキャリアデザインや研修制度などのメニューを整備した。

 その途中で,はたと困ったのが「じゃあプロって,いったい何だろう?」ということだった。「プロ」といっても,いろんな定義がある。少なくとも社内では,認識をそろえておかなければならない。そこで同社はスキルマップを作成することに決めた。

自分の現状を把握できる

 NTTコムウェアが定義したスキルマップを見せてもらった。「プロジェクトマネージャ」「アカウントマネージャ」「サービスマネージャ」「アプリケーションスペシャリスト」「テクニカルスペシャリスト」「サービスクリエータ」「コンサルタント」という7種類の人材像が定義されており,それぞれL1からL7まで7段階のグレードを規定している。

 社員はこのスキルマップを基に,自分のスキルレベルを自己申告する。社内には400人の審査員がいて,一人ひとりについて4~7回のチェックの後,認定される。

図●My育トラネット
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 自分の現状は,社内のWebサイト上で参照できる。は,2007年に開設した「My育トラネット」の画面である。ComCPのレベルや,それを基にしたキャリアパスを視覚的に把握できるようになっている。ほかにもメールマガジンやキャリア相談窓口,社内SNSなどスキルアップを支援する情報提供の仕組みをたくさん用意している。

 社員のスキルアップ支援策として,専門家が講師を務める研修のほかに,社員自身が講師を務める「業務専門家育成塾」を用意している。育成塾では,「通信業界/料金請求業務」「金融業界/保険業務」「流通業界/物流業務」といった特定業務における体系的な基礎知識を教える。1コースは10回/半年程度で,5~20人くらいの塾生を持つという。累計で1000人がこれを受講したそうだ。

 冒頭で紹介したストラップの色は,スキル認定制度やスキルアップ支援策により,各社員がどの程度のスキルレベルにあるかを示したものだ。若葉色は新入社員,緑はスキルレベルがL1~3,黄色はL4~5,赤はL6~7を表す。同社を訪問して赤いストラップを提げている人を見たら,その人は非常に高く評価されている社員である。

 正直なところ,「そこまでやるのか…」という感想をつい抱いてしまう。一方で,そこまでやるべきだし,もっとやるべきではないかとも思う。

 技術はどんどん多様化・複雑化し,プロジェクトはますます短期化する。IT業界は,これまでもこれからも,このくびきから逃れることはないだろう。そんな中で,どうやってITエンジニアのスキルを高めていけばよいのか。自分でプロになるための場をたくさん用意し,自主的な成長を促すNTTコムウェアのやり方は参考になる。