マイクロソフトが,次世代クライアントOS「Windows 7」の開発を急ピッチで進めている。早ければ4月にもRC(Release Candidate:製品候補)版が登場し,そのまま順調にいけば夏ごろには完成すると予測されている。現在の最新クライアントOSであるWindows Vistaが出荷されたのは2007年1月で,それからまだ2年強しか経っていない。Windows Vistaの登場が,その前のWindows XPが提供された2001年12月から約5年ぶりだったのに比べると,かなり急いで開発している様子が伺える。「そんなに早く新しい製品を出しても混乱するだけ」と考える人もいるだろう。

 マイクロソフトがWindows 7の開発を急ぐ理由の一つとして,Windows Vistaの評判が今ひとつなことがあることは想像に難くない。店頭で販売されているパソコンには,ネットブックのような特殊なものを除きほとんどがVistaをプリインストールしている。だが,これをわざわざWindows XPにダウングレードして使っている人が多い。中にはWindows XPにダウングレードするためにリカバリCDが付いている製品もあるように,初めからXPで使うことを前提に販売されているものも多い。システム部門が導入に関与する企業内のクライアントとしては,Windows XPを使っている比率がさらに高いと思われる。

 Windows Vistaを出荷された当初から使っている筆者としては,なぜそこまで拒否する人がいるのかが分からなかった。確かにVistaにしたからといって特別に良くなるところも少ないが,強い拒否反応を示すほど問題があるわけではない。筆者は,仕事と家庭のいずれでもWindows VistaとWindows XPを併用している。もっぱらVistaをメインに使っているが,Vistaパソコンが作業中だったり,XPパソコンの方が手近にあったりした場合は,XPも使っている。それでも,「XPを使っていたんだ」「Vistaならよかったのに」と感じるケースはまずない。どちらを使っても,特に違和感なく作業ができる。

 Windows XPパソコンを使い続けていることからも分かるように,確かに「XPをVistaにぜひ入れ替えるほどの必要性はない」と考えている。その一方で,「VistaをわざわざXPに入れ替える気持ちにもなれない」と感じるのだ。

ようやく時代がVistaに追いついてきた?

 では,「どうしてわざわざXPに入れ替える人がいるのだろう?」と考えてすぐに想像したのは「スペック不足のハードウエアで使っているユーザーが多いのでは?」ということである。

 Vistaの使い勝手にもっとも影響するのは,メインメモリーのサイズである。もちろん,CPUやグラフィック・カードの処理速度もそれなりに重要だが,ここ1~2年で販売されているパソコンが搭載しているようなCPUならば,まず大きな問題になることはないだろう。だが,メインメモリーに関しては,システムのパフォーマンスにかなりの影響が出る。

 Vistaを利用するためのシステム要件として,マイクロソフトは1Gバイト以上のメインメモリーを推奨している(Home Basicだけは512Mバイト以上)。だが,1Gバイトのメインメモリーでは,確かに動きはするものの,とても日常的に使う気にはなれない。ディスクへのスワップなど多発し,あらゆる場面で処理が終わるのを待たされることになる。筆者の経験からすると,まともに使うには最低でも2Gバイト,できれば3G~4Gバイトのメインメモリーが欲しいところだ。

 Vistaが登場した2007年1月には,こうしたサイズのメモリーを搭載することはまだまだ一般的ではなかった。例えば,パナソニックのLet's noteシリーズで見ると,2006年10月に発売されたモデルの標準搭載メモリーは512Mバイト,Vistaが標準搭載された2007年1月発売モデルでもまだ512Mバイトで,2007年5月発売モデルになってようやく1Gバイトに増えた。ほかのノート・パソコンやデスクトップ・パソコンも似たり寄ったりである。もちろんメモリーを増やすことは可能だが,改めて追加の投資をすることには抵抗があるだろうし,そもそも面倒なので標準構成のままでとりあえず使おうとする人が多いだろう。そうした標準構成のままでVistaを使った人が感じた「使えない」という評価が広まったのではないか,と筆者は考えたのだ。

 こうした状況が,ここ1年くらいでようやく変わってきた。メモリーの価格が著しく下落してきたからだ。Vistaが登場した頃には何万円もした1Gバイトのメモリーが,今では1000円程度で買えるようになっている。仮に4Gバイトのメモリーを搭載しても4000~5000円で済む。

 このメモリーの価格下落に合わせて,店頭モデルで標準搭載するメインメモリーも変わってきた。昨年までは1Gバイトというものが多かったのに,この春モデルからはほとんどの製品で2Gバイトを搭載するようになってきたのだ。先ほど例に挙げたLet's noteでも,最新の春モデルでようやく標準で2Gバイトのメモリーを搭載するようになった。これならば,Windows Vistaもそれなりに使えるため,Vistaの評判も変わってくることも期待できる。

 とはいえ,いったん人の頭に刷り込まれた印象を変えるのはなかなか難しい。そうしたことを考えると,このタイミングでVistaの“改良版”である「Windows 7」を登場させるマイクロソフトの戦略は正解なのかもしれない。