実在する遠距離恋愛中のカップルが東京と福岡からひた走り、再会するまでをネット中継したリアルタイムドキュメンタリー「LOVE DISTANCE ~僕らは、10億ミリ離れていた。~」をご存じだろうか? 2008年12月1日にスタートし、二人が再会する12月24日まで広告主の名を伏せた、超ロングティザー広告だった。

 「携帯電話会社では?」など広告主を予想するブログ記事が盛り上がったが、二人で東京-福岡間を走破して10億ミリがついに0ミリになった瞬間、表示は0.02ミリに。なんと広告主は「世界最薄コンドーム サガミオリジナル0.02」の相模ゴム工業というオチだった。

 通常、ティザー広告は、「ユニクロが時計を発売?」(ブログパーツ「UNIQLOCK」のティザー)という具合に、新商品・サービスの内容を伏せて予告する手法だが、企業名まで伏せてしまうのは画期的だ。相模ゴムのプロモーションは、洗練されたWebデザインや坂本龍一作曲のBGM……といったクリエーティブ面以上に、企業名非公開や、性別限定サイトで遠距離恋愛を疑似体験する構成など、オープンが原則のネットの世界にあえてクローズドの要素を持ち込んで期待感を醸成した点で、イノベーティブな取り組みだったと言えるだろう。

 かつてブログ黎明期なら企業ブログを開設しただけでもイノベーティブだったが、新しいメディアやツールの登場が一段落つくと、目新しい取り組みは減ってくる。

 それでも「新しい使い方」をすることで、イノベーティブなマーケティングを手掛けることは可能だ。

 例えばケータイのQRコード。ケータイサイトへの誘導手段として普及しているが、ユニリーバ・ジャパンは昨年秋に実施した男性用ボディフレグランス「AXE」のキャンペーン「チョコマンハンター」では、QRコードをポイント獲得ツールとして利用した。Webサイトや街頭ポスターなどに掲載された対象QRコードを読み込むと、ポイントが加算される。さらに、ケータイ画面に自分自身のQRコードが表示され、それを相互に読み込むことで知人同士でポイントを交換し合うことができる。QRコードを単なる誘導ツールでなく、ユーザー同士のコミュニケーションを促してクチコミを広げる企画に応用したのは珍しい。やはりイノベーティブと言えそうだ。

 もちろん、ネット/ケータイを活用したマーケティングイノベーションは、プロモーション分野に限らない。

 首都圏以外の在住者の中には、全日空の航空券販売サイト「ANA SKY WEB」で、昨年秋から出発地の選択メニューが「東京(羽田)」から自分の最寄りの空港に切り替わっていることに気づいた人もいるだろう。ログインしないANAマイレージクラブ非会員には、それまで出発空港・到着空港ともに利用者が一番多い「東京(羽田)」がデフォルト設定だったが、昨年秋のリニューアル以降、例えば福岡在住者には福岡空港が初期表示されるようになった。ユーザーのIPアドレスを基にアクセス地域を判定して表示を切り替えるサイバーエリアリサーチ(静岡県三島市)のサービスを導入した。空港選択だけでなく、おトク情報から天気情報に至るまでエリアに沿った内容が表示される。こうしたエリアターゲティング技術の導入で、コンバージョン率(アクセス者に占める航空券購入者の割合)は多い地域で倍増したという。

 「やっぱ“FX”ゆうたら『ひまわり』やろ?」──。ひまわり証券は、「FX」というキーワードで検索した大阪在住のユーザーに、方言を交えた広告説明文を表示した。エリアターゲティングと検索連動型広告を組み合わせたこの取り組みも、イノベーティブな新しい活用法と言えそうだ。

 新しいデジタル技術やツールの導入、あるいは既存技術・ツールの新しい活用の仕方によって“売れる仕組み”を作り、成果を上げる──。それがマーケティングを進化させ、低迷する消費を刺激する力になる。

 そこでこのたび「日経ネットマーケティング」は、こうした施策に積極的に取り組むチャレンジングな人材・チームをフューチャーし、消費者および企業のインターネット活用の進展に対応した優れたマーケティング活動を表彰する『日経ネットマーケティング イノベーション・アワード』を創設。2月20日から募集を開始した。

 ネット/ケータイを活用したデジタルマーケティング分野では、優れた広告クリエーティブやプロモーションを表彰する制度はいくつかあるが、当アワードは、企業のマーケティング活動におけるビジネスイノベーションに着目して、審査・贈賞する。

 第1回は、2008年4月~2009年3月に実施された、ネットやケータイ(デジタル)を軸にしたプロモーション、販促、ブランディング、サイト構築・刷新、イベント、業務革新などで、一定の成果が数字で把握できているプロジェクトが対象。

 ネットマーケッターの皆様の“自信作”をぜひご応募いただきたい。

■日経ネットマーケティング イノベーション・アワード