世界で通用する日本発のテクノロジとして、頓智・(TonchiDot)が開発を進める「セカイカメラ」が話題になっている。記者も、セカイカメラが初披露されたファッションとデザインの展示会「rooms18」(2009年2月17日~19日、東京・渋谷で開催)を訪れてみた(関連記事:頓智・,「セカイカメラ」を初披露)。だが、プレス向け説明が終わっても、セカイカメラのすごさを感じ取れなかった。その直後に、頓智・社長の井口尊仁氏らと直接話してみるまでは。

セカイカメラ・井口社長がくれた気付き

 記者に、セカイカメラやrooms18のことを教えてくれたのは、日経コンピュータのF記者。「Enterprise Platform」サイトにあるコラム、「テクノロジ玉手箱」で紹介したい、という一種の“売り込み”、いや協力の申し出だった。他サイトにあった動画像を見せてくれたり、「こんなことができるんです」とセカイカメラの機能を説明してくれたりと、それは気合いが入っていた。それでも、「何がそんなに面白いのか」といった印象しかなく、むしろ、「ファッションとデザインの展示会」という会場自体や、「実際に体験できるようiPhoneを貸してくれる」といF記者のささやきの方が正直、興味をそそられた。

 披露会当日。実際にセカイカメラ搭載のiPhoneを借り受け、期待通りに“未体験”な環境だった展示会場内を、F記者としばらく歩いてはみたものの、二人ともアプリケーションを十分に操作しきれないこともあり、冒頭で述べたように「どこがすごいのか」という気持ちだけが強まってきた。プレス向け説明も、井口社長が軽いノリを前面に押し出し、砕けた感じで進行するスタイルだったから、セカイカメラの仕組みの説明もないままに、終わってしまった。

 「苦手なタイプ」と記者が感じた井口社長だが、会見終了後に名刺を交換し1対1の立ち話になると、その印象はガラリと一変する。語り口を含め、“熱意ある技術者”の一人として、セカイカメラに込めた世界観を説明してくれたのだ。「誰かと出会っても、その人が何を考えているのか、どんな趣味・嗜好を持っているのかは表面的には分からない。そんな内面を、個々人が掲示し、それを外から見られれば、もっとストレートに深いコミュニケーションが可能になるはずだ」と。井口社長は、哲学科の学生時代にプログラミングを始めたという。

 井口社長の思いを聞くにつれ、記者はセカイカメラの楽しさの一面を理解した気になれたし、応用例のいくつかにも合点がいった。そして、それまで「?」だった、同会場におけるセカイカメラのデモ内容についても、大げさなようだが、“霧が晴れるように”頭の中に入ってきた。もっともF記者に、それを告げても「最初から、そう言っていたでしょう」という程度の理解ではあったのかもしれないけれど。

 話が少し長くなってしまったが、井口社長との短い出会いの例で記者が言いたかったことは、「機能の説明だけでは、テクノロジの価値は伝わらない」ということだ。「あれができる」「これができる」といった機能説明は、「あれ」や「これ」に実際に困っていたり、その困難さに気付いていたりする場合にだけ理解できる説明方法ではないだろうか。オープン化後のITが、複数のミドルウエアに分断され、それぞれが機能説明に終始してきたことが、「ITは特別なもの」「誰かが考えてくれるもの」といった風潮を加速させたとも考えられる。