2011年に予定されている放送の完全デジタル化で変わるのはテレビだけではない。テレビの番組やCMがどれくらいの世帯や人々に見られているかを示す指標である「視聴率」の測定方法も,一緒に進化している。視聴率調査を行うビデオリサーチが2009年2月5日と6日に開催したイベント「Data Vision 2009」では,多様化するメディアや視聴動向に対応するさまざまな取り組みを紹介していた。

 ちなみに,あるメディアをどれだけの人が見たかを示す指標のことを一般的には「接触率」と言う。テレビの場合だけ「視聴率」と呼ぶが,ここではテレビ以外のメディアについても触れるので,これ以降「接触率」で統一する。

 接触率調査で最もニーズが高いテレビ向けのものとしては,視聴中の番組の音声を調査機でマッチングして,視聴番組を特定するシステムが使われている。このシステムは,デジタル放送の番組表示がアナログ放送よりも数秒遅れる特性を利用することで,アナログ放送とデジタル放送のどちらで視聴しているかも特定できる。

 ケーブルテレビ(CATV)などのデジタルセットトップ・ボックス向けには,チャンネル切り替え時にテレビ画面にスーパーインポーズされるチャンネル番号を画像認識することで視聴チャンネルを特定している。この手法は,今後普及が進むと見られるIPTVの接触率調査にも展開できる。

 パソコンを使ったテレビ視聴向けには,通常のテレビの場合と同様に音声をマッチングする方法が現実的だ。ただし,パソコンでは通常のデジタルテレビよりもさらに番組表示が遅れることが多く,この点を考慮した音声比較アルゴリズムの調整が必要になる。また,移動して使う可能性があるノートパソコン向けとして,マッチング用の音声データを調査機に無線転送するシステムが紹介されていた。

 テレビパソコンの接触率測定は,技術面よりもむしろ運用面のハードルが高いという。個人的な情報を表示する機会が多いことから,調査機を付けてもらうこと自体が難しいのだ。また,パソコンによる番組視聴は,テレビ以上に「ながら見」される傾向があり,表示中の番組が本当に視聴されているのかを判定する必要もある。例えば,番組ウインドウの上にWebブラウザーなどの別ウインドウが一定割合以上重なって表示されている場合は,視聴としてカウントしないといった判定基準を検討している。

 インターネットの動画配信サービス向けには,運用中の「Video Contents Report」(VCR)という調査方法が紹介されていた。VCRは利用者端末側で実際に動画が再生された状況を測定しており,再生回数やどこまで視聴したかなど,詳細な接触データを測定できる。

 ワンセグの接触率調査向けには,専用アプリで視聴チャンネルを監視するシステムが展示されていた。KDDIの携帯電話機向けのシステムが開発済みで,番組情報だけでなくGPSデータを利用して視聴場所の情報も収集できる。また,KDDI以外の携帯電話事業者向けにも同様のシステムを開発中である。

 ハードディスクレコーダーなどによるタイムシフト視聴向けには,放送番組の音声データに電子透かしを埋め込む「音声透かし技術方式」が紹介されていた。放送事業者側の送出システムを変更して透かし情報入りの番組を放送する必要があり準備が大掛かりになるが,正確に番組を特定できる。

 今回の展示は,あくまで個々のメディアの広告媒体としての効果測定を目的とした取り組みが中心だった。実際には複数のメディアを組み合わせた「クロスメディア展開」で,広告の効果を高める取り組みも数多く行われている。また,テレビのような「マス」媒体だけでなく,デジタルサイネージのような「ローカル」な媒体の注目度も高まっており,特性の異なる複数のメディアを組み合わせた場合の効果をどう一元化して比較できるようにするか,といった点が大きなテーマとなりそうだ。