総務省は地上デジタル放送の浸透に苦労しているようだ。2009年2月17日に総務省が公表した調査では,地上デジタル放送対応の受信機を保有している世帯は1月中旬時点で49.1%と,まだ半数に満たない。

 地上デジタル放送には高品質の映像と音声での視聴やデータ放送を楽しめるといったメリットがある。だが,視聴には新しいアンテナの設置やテレビの購入が必要で,各世帯に大きな負担が生じる。画質や音にこだわらない人にとっては,「高画質でなくてもいいから今のままにしておいてほしい」というのが本音だろう。

 こうした点だけを考えれば,一部のメディアが批判しているように「国民不在のデジタル移行」という指摘は,うなずけないことはない。

 一方,マンションの居住者の視点に立てば,地デジへの全面移行は大きなメリットがある。マンションの所有者は建物に邪魔されてテレビ放送を鮮明に受信できない世帯に対して,補償の義務を負う。もし,地上デジタル放送に全面移行できれば,この負担を大幅に減らせる可能性があるからだ。記者は最近そのことを身をもって知る機会を得た。

アナログ停波なら電波障害対策費は激減

 ことの発端は,自身が居住するマンション周辺の道路工事だった。この工事には電柱上に敷設された電線やケーブルの地中化を伴う。埋設すべきケーブルの中には,記者の住むマンションが周辺世帯の電波障害対策用に敷設した自営ケーブルテレビ網が含まれていた。

 管路は行政側が用意してくれるものの,網の所有者はマンションということで,自営ケーブルテレビ網の地中化に伴って発生する工事費や周辺住民への説明などの費用はマンション側で負担する必要があるという。そこで,施行業者に見積もってもらった。その結果,工事費や諸経費を合わせて250万円程度の負担が必要なことが判明した。記者の在住するマンションには20戸程度しかないため,1世帯当たり10万円強の負担になる。

 そこで,記者はこのコストの低減方法がないか調べることにした。その過程で分かったのが,地デジはビルによる電波障害に強いという事実だ。マンションに隣接する家での受信は難しいが,少しでも離れていれば屋上のアンテナで受信できるという。

 記者のケースでは,マンションと被電波障害地域の間に片側2車線の道路を挟むため,アナログ放送で障害を受けている地域も地デジなら問題なく受信できる。もし,この工事がアナログ停波後であれば,こうした負担は発生していなかったことになる。

 マンション居住者の中で,記者のように突然,1世帯当たり10万円の負担をしなければならないケースは少ないだろう。それでも地上デジタル放送に移行すれば,多くのマンションで電波障害地域の対策の負担が減ることが期待できる。電波障害地域を抱えるマンションでは,記者のマンションと同様に自営のケーブルテレビ網を運営するか,民間のケーブルテレビ事業者に障害対策を委託しており,この維持費に少なからぬお金を継続的に負担しているからだ。

 例えば,記者のマンションのケースでは,電力会社やNTTから電柱を借りるために毎年3万円近いお金を負担している。ほかに,機材の維持のための電気代も負担している。機器の故障時にはこの修理費用も支払う必要がある。

 実際,2008年夏に記者のマンションの自営ケーブルテレビ網の装置が故障したのだが,修繕費用として60万円程度を支払う必要があった。アナログ放送が停波し,デジタル放送に完全移行できれば,電波障害地域が縮小することから,多くのマンションでその対策費用を小さくできるはずだ。