日本のWeb企業も続々開発中

 楽天が開発する「ROMA」やグリーが開発する「Flare」も同じく、キー・バリュー型データストアである。いずれもデータをネットワーク上にある複数のPCサーバーに分割して保存し、さらに各データをそれぞれ別のPCサーバーに複製して保存できる。こうすることで、大量データを複数PCサーバー上の物理メモリーに保存すると共に、冗長性と永続性を保とうとしている。

 Danga Interactiveやミクシィ、楽天、グリーは大量のユーザーと大量のコンテンツを抱えるWebサービス企業である。膨大なデータを高速かつ安価に保存するために、半導体メモリーを使用する大容量のデータベース技術を必要としていたが、彼らが利用できる安価な技術が市場に無かったことから、各社は自前でキー・バリュー型データストア技術を開発した。

 このように「市場に技術が無いから自分たちで開発した」という人や企業に出会うことが最近増えてきた。先日は「はてな」で興味深い話を聞いた。

 はてなは「はてなブックマーク」などのサービスを提供している。同社が自社開発しているのは、データベース技術ではなく、サーバー・ハードウエアである。現在、毎月50台程度のPCサーバーを調達しており、その3分の2は自作という。さすがにデータベース・サーバーにはメーカー製品を使用しているが、Webサーバーやアプリケーション・サーバーは自作している。

 同社は以前から、自社で使うPCサーバーを、PCパーツ販売店でプロセサとメモリー、マザーボードなどを調達して、社員自ら組み立てていた。自作サーバーの話を川崎裕一副社長から初めて聞いた2006年当時は、てっきり「資金が限られているからやっているのだろう」と思っていた。しかしそれは大きな勘違いだった。任天堂と提携して「うごメモはてな」のようなサービスを提供し始め、ゴールデンタイムのテレビCMで「はてな」の社名を聞くようになった今も、同社はサーバーの自作を続けていた。

 その理由を田中慎司執行役員は「自分たちが自作しているスペックのサーバーをメーカーから購入できないから」と説明する。現在、はてなが自作しているサーバーのスペックは、「プロセサはデスクトップPC用のCore 2 Quad、メモリーは8Gバイト、ストレージは32GバイトのSSD。インテル製のマザーボードを使っているが1台あたりの価格は7万円弱」という。なるほど、こんなサーバーはメーカーからはとても入手できないだろう。

 「サーバーのストレージにSSDを採用し始めたのは2008年秋から。おかげでサーバーの消費電力が10%下がり、同じサーバーラックに今までよりも1割多くサーバーを搭載できるようになった」と田中氏は語る。

 筆者は以前、「そのソフト,売る?売らない?」という記事で、米Googleや米Amazon.com、米Microsoftといったクラウド・コンピューティングの有力プレイヤーが、クラウド・コンピューティングの基盤技術を「自社に必要だから」開発していると書いた。ところが、自社に必要だから自分で技術を開発している企業は、日本にもあったのである。

 考えてみると、GoogleやAmazon.comもWebサービス企業であって、IT製品を開発するメーカーではない。Microsoftも、クラウド・コンピューティングの基盤技術をメーカーとしてではなく、広告やユーティリティ・コンピューティングといったWebサービス事業のために開発している。

 日米の動きを見ていると、IT分野におけるテクノロジの開発は、従来のハードあるいはソフト・メーカーではなく、Webサービスという新しい「ユーザー企業」が主導しているようだ。筆者は最近、その思いを強めている。

■変更履歴
記事で紹介したミクシィの「Tokyo Cabinet」と「Tokyo Tyrant」の説明に誤りがありました。お詫びして以下のように訂正します。(1)1ページ目の見出し「ミクシィ利用者の『足跡』を保存する」を「ミクシィ利用者の『最終ログイン時刻』を保存する」に,(2)見出し下2段落目の2つ目の文「利用者の『足跡』情報」を「利用者の『最終ログイン時刻』情報」に,(3)同3つ目の文「足跡情報とは、ある利用者が他の利用者の日記ページなどを閲覧したログである。」を削除,(4)同4つ目の文「足跡(ログ)」を「時刻」に,(5)見出し下3段落目の2つ目の文「保存するソフトウエアとして『Tokyo Tyrant』を開発した」を「保存できるようにした」に,(6)見出し下3段落目の3つ目の文,同4段落目の1つ目と2つ目にある「足跡情報」をすべて「最終ログイン時刻」に,(7)見出し下4段落目の末尾に「『Tokyo Tyrant』は複数のコンピュータからTokyo Cabinetを同時に利用するためのサーバーである。」を追加。本文は修正済みです。 [2009/2/26 17:30]