数年前の常識と異なるITシステムの価格

鹿児島県屋久島町のホームページ。大手ベンダーによる見積もりは数千万円だったが100万円で構築できた
鹿児島県屋久島町のホームページ。大手ベンダーによる見積もりは数千万円だったが100万円で構築できた
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 これらのコスト削減事例を支えているのは,オープンソース・ソフトウエアとパソコンだ。ここ数年で,IPX-PBXや多機能オフィス・ソフト,高機能なホームページ管理システムなど,本格的なソフトウエアがパソコンやPCサーバー上で動くオープンソース・ソフトウエアとして公開されるようになってきている。競合する商用製品が数百万,数千万することは珍しくない。機能や実績に違いはあるだろうが,ITシステムの価格に関して数年前の常識では考えられなかった事態が起きていると言っていい。

 これらのオープンソース・ソフトウエアは大手ベンダーが積極的に売り込みに来ることは少なく,大手ベンダーの製品に比べれば登場して間もなく実績も少ない。さらにオープンソース・ソフトウエアといっても商用製品に劣らぬ機能や品質を持つものもあれば未完成のものもある。しかし,自分たちが求める機能は何かを把握し,必要な機能と性能を満たしているかどうを検証することができれば大きなメリットを享受することができる。

 オープンソース・ソフトウエアであれば,大手メーカーの技術者でなくとも誰でもダウンロードして動かしてみることができる。情報も,英語である場合はあるもののインターネット上にある。パソコンであれば高額な費用をかけることなく入手して習熟することができる。つまりプロでもアマチュアでも,同じ情報にアクセスすることが可能だ。大館市の中村氏も普通科高校出身で,コンピュータの専門教育を受けたわけではない。意欲さえあれば,プロに劣らないスキルを身につけることができる環境が生まれているのではないか。

 大館市では職員が自らシステムを作り上げたが,もちろんすべてを自分たちの手でやらなくともいい。鹿児島県 屋久島町では「ベンダーに数千万円の費用がかかると言われたホームページのシステム化(CMS導入)を,島内の中学校教諭の配偶者の方に依頼したら100万円で実現できた」(屋久島町 副町長 日高典孝氏)という(関連記事)。ホームページ管理システムには国立情報学研究所が開発,公開しているオープンソースCMSであるNetCommonsを採用している。長野県塩尻市は次期図書館システムに,第三セクターのまちづくり三鷹が開発したシステムの採用を決定したが,大手ベンダー製の現行システムを更新・拡張する場合に比べ,費用を約半額に抑えられるという(関連記事)。

 重要なことは,自分たちに必要な機能の優先順位を付けて何をあきらめるかを判断し,実績のなさから心配されるリスクにどう備えるかを考えることだろう。例えば大館市では,IP電話に障害があれば一部残したアナログ電話を使えばいい,いよいよとなれば職員の携帯電話も使える,とリスクとリターンを比較して判断した。会津若松市では,Microsoft Officeでは使える点線がOpenOffice.orgでは使えないという問題に「点線が使えなくとも薄い線などで代用すれば事が足りる」(会津若松市役所 本島氏)と割り切った(関連記事)。

 可用性,見栄え,担当者の手間,何を“捨てる”ことができるのか。代替手段や運用でカバーすることが可能なのか。それを判断することは当事者であるユーザーにしかできない。そして,代替手段を探し当て,自分の手を動かしてそれを検証できるスキルはかけがえのない武器になる。それが大館市の挑戦と成功から学べることではないか,と記者は考えている。

◎関連リンク
IP-PBX導入によるIP電話システムの構築について(秋田県大館市)
導入事例 - VOIP-Info.jp Wiki

■変更履歴
鹿児島県八代町の地図情報システムと鹿児島県屋久島町のホームページの画面を追加しました。 [2009/02/10 11:13]
2ページ目の図のキャプションで「鹿児島県八代市」と表記していましたが,正しくは「熊本県八代市」です。[2009/02/10 12:10]
2ページ目で会津若松市で「ベンダーの研修を探してみると1人当たり31万円,500名とすれば1500万円だった」とありましたが,正しくは「ベンダーの研修を探してみると1人当たり3万円,500名とすれば1500万円だった」です。[2009/02/10 14:09]
2ページ目最後から2番目の段落で「栃木県二宮市」とありましたが「栃木県二宮町」です。以上お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2011/01/17 16:37]