2重化とアナログでバックアップ

緊急時用のアナログ電話機(写真提供:大館市)
緊急時用のアナログ電話機(写真提供:大館市)
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PoEスイッチ Nortel BayStack 460-24T-PWR Switch(写真提供:大館市)
PoEスイッチ Nortel BayStack 460-24T-PWR(写真提供:大館市)
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 職員が自力で構築したことで心配になるのは,障害時の対応だ。順調に稼働しているときは問題ないが,故障などが起きたときに業務を継続できるのだろうか。

 まずIP-PBXは2重化しUPS(無停電電源装置)も設置。さらに災害時に備え発電機を設置し,電話機の電源をPoEで送るようにしている。

 さらに従来のアナログ回線も40回線残してある。NTTの転送サービスを利用してFAX回線をアナログ回線に切り替えることで,災害時にも通話ができるようにした。「いざとなれば携帯電話を使用することも選択肢の一つ」(中村氏)。問題があれば前の状態に戻ればいい,というのが一つの答えだ。

引き継ぎマニュアルを作成

大館市総務課 課長補佐 安保透氏(写真提供:大館市)
大館市総務課 課長補佐 安保透氏(写真提供:大館市)
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 高いスキルを持つ職員の活躍で実現したシステムだが,その職員がいないとシステムが運用できないという事態にはならないのだろうか。

 Asteriskの場合,普段は特に運用のための手間はないという。新しい電話機を追加する際には中村氏が設定を行っているが,電話機の追加はそれほど頻繁には発生しない。

 仮に中村氏が異動しても後任に引き継げるよう,操作マニュアルは整備してある。ただし地元にAsteriskを扱える企業が少ないため,今後,大館市の職業訓練短大と提携し技術者育成を行っていく方針だ。

大館市だけではない大幅なコスト削減

熊本県八代市の地図情報システム。職員の小林隆生氏が開発した
熊本県八代市の地図情報システム。職員の小林隆生氏が開発した
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 大館市は特殊な例なのだろうか。高いITスキルを持つ職員がいたからこそ可能な事例であることは確かだ。しかし,職員のスキルと行動力でITのコスト削減や効率化を成し遂げた例は,自治体に限ってもほかにもある。

 例えば会津若松市はオフィス・ソフトのMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgへの移行を進めている。OpenOffice.orgはオープンソースのオフィス・ソフトで,Microsoft Officeのファイルを読み書きできる。

 全パソコン840台のうち85%はMS Officeを購入する必要がなくなり,5年間で1500万円のコストを削減できると見ている。このコスト削減を可能にしているのが,同市の情報政策課の職員のスキルと自ら手を動かす姿勢だ。市職員へのOpenOffice.org導入研修も,ヘルプデスクも情報政策課の職員が行っている。「ベンダーの研修を探してみると1人当たり3万円,500名とすれば1500万円だったが,職員が講師を務めたので費用としての計上はゼロ。ソフトのバージョンアップはベンダーに頼むと1台3万円かかるが,従来から職員でやっている」(会津若松市役所 総務部情報政策課 副主幹 本島靖氏)という(関連記事)。

 熊本県八代市では市の職員である小林隆生氏が地域ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「ごろっとやっちろ」を一人で開発した。またFlashベースの地図情報システムも開発している。地図情報システムは外注の見積もりをとったところ数億円だったという(関連記事)。

 Linuxデスクトップを導入したことで知られる栃木県二宮町ではLinuxやファイル・サーバー・ソフトSamba,ホームページ管理システムのXOOPSなどのオープンソース・ソフトウエアを導入しライセンス・コストを削減しただけでなく,サーバー管理も職員の総務企画課情報管理室長 海老原慎一氏が行い管理コストを節約している(関連記事)。

 もちろんこういった例は企業でもたくさんある。関西のある企業の営業事務を担当者である管雄一氏は,大阪のベンチャー企業ロックオンが開発したオープンソースのEC(電子商取引)サイト構築パッケージの「EC-CUBE」を使い,ショッピングモールや,レンタルサーバーよりも低コストでインターネット販売システムを構築した(関連記事)。