未曾有の不況下にある米国で,データセンター建設は比較的堅調だ。既存のデータセンターの約半数が近い将来,必要なスペースと電力を確保できなくなると予想され,データセンターを新規に建設する動きが相次いでいる。

 新設されるデータセンターはもちろん,既成のデータセンターでも,エネルギー効率化に取り組まざるを得ない状況にある。評価軸としては,業界団体のグリーン・グリッドが提唱する「PUE(電力使用効率)」が,米国をはじめ,日本やEUにおいても定着してきた。PUEは,データセンター全体の電力消費量を,サーバーなどのIT機器による電力消費量で割った値だ。値が小さいほど,電力効率に優れていることを示す。

 「米国ではデータセンター間でPUEを競う動きが過熱している。マーケティング・ツールとして利用しようという業者の中には,PUEは絶対に1より小さい数値にはならないのに,0.8だと言って顧客に売り込もうとするところもあるほどだ」。米国の調査会社AltaTerraでプリンシプル・アナリストを務める岸本善一氏は,あきれたように話す(関連記事:「米国のデータセンターはPUE1.2に近づいている」)。

 PUEの有効性は認めるが,電力消費量の測定方法があいまいなので実用的でない---。当初,ユーザー企業の中にはこうした意見が多かった。だがグリーン・グリッドがEPA(米国環境保護庁)や研究機関などと検討を重ねた結果,「PUEの実用性とエネルギー効率を高めるためのベスト・プラクティスは相当蓄積されてきた」と,日本コミュニケーション委員会代表を務める坂内美子氏は請け負う。2月3日~4日に米サンノゼで開催されるテクニカルフォーラムで,その成果が披露されるという。

電力消費量の「見える化」ビジネスが本格化

 「自社のデータセンターのPUEを測り,戦略的に改善する」。これが,データセンター事業者はもちろん,ユーザー企業においても共通認識になろうとしている。そこでIT各社は一斉に,電力消費量の可視化ビジネスに本腰を入れ始めた。

 米Cisco Systemsはスペイン・バルセロナで開催した同社のイベント「Cisco Networkers 2009」で現地時間の2009年1月27日,企業の電力消費量をトータルに管理するためのプラットフォーム「Cisco EnergyWise」を発表した。ネットワーク装置をはじめとするIT機器や建物などの社内インフラ全体について,電力の利用状況をリアルタイムで一元管理し,無駄な電力消費を抑え,コスト抑制やCO2排出削減を支援する。

 EnergyWiseは3段階で展開。まず2009年2月に,同社のスイッチ製品「Catalyst」でEnergyWiseのサポートを開始する。IP電話や監視カメラ,無線アクセス・ポイントなど,ネットワーク接続されたIP機器の電力消費を管理できる。2009年夏には,管理の対象範囲をPCやプリンタなどのIT機器に拡大。さらに2010年初頭には,照明や空調,エレベーターなどの館内設備の電力消費量も管理できるようにするという。

 同日,電力管理ソリューションを手がける米Sentillaも,データセンター向けの電力管理システム「Sentilla Energy Manager」を発表した。データセンターに設置されたサーバーごとに電力消費量を追跡し,電力コストおよびCO2排出量など詳細な分析を提供する。マイクロプロセッサを組み込んだアプライアンスを使い,サーバーごとに電力消費量を測定するので,どの機器の電力負荷が大きいかを一目で把握できるようになる。

 このほか,米IBMが米国時間2009年1月23日に発表した,企業のサプライチェーンの“グリーン化”を支援するツール「Supply Chain Network Optimization Workbench(SNOW)」も面白い。高度な数学を利用し,資材調達から生産,保管,物流までの各工程におけるCO2排出量やコストを分析するという。この結果を基に,企業は配送ルートを決定したり,製造を自社生産するか外部委託するかといった意思決定を行える。電力管理ツールと狙いは異なるが,経営の意思決定に役立てるカーボン・マネジメント・ツールの新しい手法として注目できる。

 ITベンダー各社がグリーンITのビジネスに力を入れるのは,それだけ企業が直面している電力危機と環境問題が切実だからである。特に米国の電力危機は深刻で,データセンターのエネルギー効率の向上は待ったなしの状況だ。

 ITproでは,地方部の巨大センター,都市部の中小センターのそれぞれの取り組みを,AltaTerraの岸本氏に現地から報告してもらった(「電力危機に挑む米国のデータセンター」)。こちらもぜひご覧いただきたい。