先日,ある企業でNGN(次世代ネットワーク)を利用したネットワーク・サービスを開発している担当者と話す機会があった。その担当者は「今のままではNGNを使った企業向けサービスが作れない」と嘆く。NGNのインタフェースが企業向けサービスを作るために必要な仕様になっていないというのだ。

 外部端末をNGNにつなぐためのインタフェースには,SNI(application server-network interface)とUNI(user-network interface)の2種類がある。SNIはアプリケーション・サーバーとNGNを,UNIはユーザー端末とNGNを相互接続する。

 NGN商用サービスが始まる前後には,これらのインタフェースを使った多様な企業向けアプリケーションが次々と登場するといった“バラ色”の将来像が喧伝された。ところが実際のところ,そうしたサービスが出てくる気配はない。その背景にあるのは,NGNのインタフェース仕様が企業向けサービスには不十分なことだという。

企業向けサービスに使うには仕様が不十分

 NGNのインタフェース仕様の何が不十分なのか。記者が会った開発担当者は三つの問題点を挙げた。(1)データ転送ができない,(2)帯域が不十分,(3)信頼性が低い――である。

 (1)の「データ転送ができない」は,NGNの特徴であるSIP(session initiation protocol)による帯域確保型通信に絡む問題だ。

 NGNの帯域確保型通信では,パケットを転送するためのセッションごとに帯域を確保する仕組みになっている。ところが今のNGNのサービス仕様では,そのセッションで流せるパケットの種類が音声パケットと映像パケットだけに限られている。

 専用線やVPNとして使うにしても,SaaS(software as a service)タイプのアプリケーション通信に使うにしても,データ・パケットを転送できなければ企業向けとして使いようがない。

 (2)の「帯域が不十分」は,帯域確保型通信でデータ・パケットを流せるようにしたとしても,その帯域が狭くて不十分であるという問題だ。

 前述のように,サービスとしてはまだデータ・パケットは流せないが,網の機能としてはデータ・パケットを転送することは可能だ。しかし,その帯域として当初考えられているのは,わずか20kbpsだという。さすがに今の企業向けサービスとしては帯域が狭すぎる。せめて専用線並の128kbpsは必要だ。

 もう一つの(3)の「信頼性が低い」は,企業が必要とする従来の専用線並みの信頼性が,今のNGNにはないという問題である。今回話を聞いた開発担当者は「今のNGNはこれまでのBフレッツと同じ感覚で運用しているのでは」と,NGNの信頼性に疑問を投げかける。
 
 企業向けに使うためには,少なくとも何らかのSLA(service level agreement)を示してもらう必要があると感じているという。ただし,「従来の専用線よりも低い料金でないとメリットを顧客に説明しにくい」と話す。

実は企業の関心は高い

 NGN商用サービスが始まってからもうすぐ1年になるが,企業でのNGN導入が進んでいるという話は聞かない。では,NGN商用サービスが始まった当初に比べて,企業のNGNへの興味が薄れたのかというと,そうでもないらしい。実際,その開発担当者によるとNGNを使った企業向けサービスに強い興味を持つ顧客は多いという。

 例えば,銀行などの金融機関では現在,情報系に安いBフレッツを使い,勘定系に信頼性の高い専用線を使うケースがよく見られる。NGNを使えばこれを一つに統合できる。帯域確保型通信を応用し,情報系にはベストエフォートで安いサービスを,勘定系には帯域を確保した高信頼性のサービスを使えるからだ。

 こうした用途に使うためには当然,前に挙げた(1)~(3)の問題点を解決する必要がある。銀行が帳票をやり取りするプロトコル(全銀協手順)はデータ量自体が少ないので,広い帯域は必要ないという面がある。しかし,もしNGNで広帯域通信が使えるなら,ATM(現金自動預け払い機)を情報端末にして,映像などを配信したいという要望もあるという。

データ・トラフィックの挙動を恐れている

 なぜ,NGNのインタフェース仕様が企業向けサービスに適さない形になっているのだろうか。別の担当者は,「データ向けのトラフィック設計がまだ出来ていないのでは」と推測する。

 NTT東西は,電話の音声トラフィックのパターンは熟知しているが,企業向けデータ,とくにIPのようなバースト的なトラフィックを熟知しているわけではない。そこで,データ・パケット向けのサービス開始を遅らせ,さらに帯域も20kbpsと絞っているというのだ。

 さらに,NGNには電話のサービスも乗っているので,「絶対に落とせない」とことさら慎重になっていると,その担当者は推し量る。

 とはいえ,NTT東西はBフレッツの経験もかなり長い。IPのトラフィックについては十分な知識を蓄えていると考えてよいだろう。サービス提供エリアが狭い今だからこそ,企業向けサービスとして使える仕様を積極的に提供していくべきではないだろうか。