筆者は動画共有サイト「ニコニコ動画」を頻繁に視聴する。いわゆる「ニコ厨」である。最近は音声でテキスト・データを読み上げるソフト「SofTalk」を使った動画作品「ゆっくりしていってね」シリーズなどが好きだ。

 先日,「ゆっくりしていってね」関連の動画をあまりネットを使わない女性の友人に見せたところ,ドン引きされた。内容は有名なアニメ主題歌のややブラックなパロディソングだ。そうなることを恐れつつも,面白さを共有し合えることに多少の期待感があったのだが,やはり駄目だった。

 ニコニコ動画は,誰もが楽しめる一般的なサービスとしてはまだ普及していない。改めて,そう感じさせられた。

マニア向けから脱却してiモードのようになる

 ニコニコ動画を運営するニワンゴと親会社のドワンゴは2008年12月4日,都内でニコニコ動画に関連したイベントを開催した(関連記事)。会場では元NTTドコモでドワンゴ顧問の夏野剛氏が,ニコニコ動画をマニアだけでなく,一般ユーザーも楽しめる「iモードのようにする」と宣言。すでにiモードの公式メニューと同じように,企業からの公式な提供動画を集めた「ニコニコチャンネル」を展開している。ニコニコ動画はiモードならぬ,「ニコモード」への道を突き進み始めた。

 iモード化とは,ニコニコ動画の一般化を目指した施策である。ニワンゴが一般化にこだわるのは,現在のコンテンツがアニメやゲームを好むマニアックな視聴者向けに偏っており,冒頭で紹介したように,一般の人たちにはドン引きされることが多いためだ。ニワンゴとしては,一般的なコンテンツ投稿者や視聴者を増やした上で,有料会員を増加させるための仕組みと組み合わせて,課金収入の拡大を目指している。

 背景には,慢性的な赤字に悩むニコニコ動画の経営状況がある。視聴者からの高い支持がある一方で,黒字化の要となる有料会員数はまだ少ない。こうした事情を背景に動き出したのが,ニコニコ動画の一般化を目指した「ニコモード」作戦である。

収益モデルの確立で避けられない一般化への道

 ニコニコ動画と同じように収益拡大を目指して一般化に取り組んだ例に,ネット通販支援サイトの「価格.com」がある。

 価格.comを運営するカカクコム創業者の槙野光昭氏は「1円でも安く良いパソコン関連製品を買いたい」という電子機器好きの消費者のニーズに応えて,それに特化した情報を提供する専用サイトとしてサービスを開始した。同サイトには,コミュニティとしての機能もあり,予想通り彼らの支持を集めた。

 ただ,当初はなかなか収益モデルを確立できなかった。そこへ大手投資会社出身の穐田誉輝氏が参加して収益モデルを確立,カカクコムを上場に導いた。穐田氏は「きゅうり1本でも価格比較できるようにする」と提供情報の一般化を目指し,電子機器に限らない商品ジャンルを拡充。そこからグルメ情報サイト「食べログ」のような別ブランドの人気サイトも誕生した。

 当初は「扱う情報が増えた代わりに,個々の情報の質が落ちた」と一般化の流れを批判する向きもあった。だが,既存ユーザーは心配したほどには離反しなかった。

 ヤフーの前例もある。広告に次ぐ収益の柱であるネット・オークション「Yahoo!オークション」は,利用者間で売買を行うシステムであり,CGM(消費者生成メディア)という言葉が登場する以前からCGM的なサービスだった。主力のYahoo!オークションを含むヤフーの2007年度の通販総取扱額は9400億円と1兆円に迫る。

 ただ,以前はYahoo!オークションを利用した詐欺行為などのトラブルが絶えず,利用者は一般になかなか広がらなかった。そこで,ヤフーは2002年に本人確認システムを導入。安心して誰でも使える一般的なサービスを目指すと同時に,サービス利用の有料化に踏み切った。有料化当初はその成否について業界内の意見は割れたが,蓋を開けてみれば安全性を重視することで一般からの支持が高まった。

 さらに,最近注目されるサービスにおいても,一般化というキーワードが付きまとっている。

 例えば,イラスト共有サービスの「pixiv」。これは,投稿コンテンツの進化の過程でぽっかり空いた「画像」の需要を汲み取ったサービスだ。その背景には,誰でも書き込めるテキストベースのコミュニティ・サイトから,動画共有サイトにトレンドが一気に移ったことで,画像が置き去りにされていたことがある。動画よりコンテンツ投稿のハードルが下がって一般化したことで,サービス開始からわずか1年足らずで月間のアクセス数が4億ページビューの巨大コミュニティ・サイトとなった。