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ITpro

危機の時代だからこそ活気と元気を

2008/12/11
吉田 琢也=ITpro

 IT業界では“業界のイメージ”が話題に上ることが多い,という印象がある。業界団体が業界のイメージを気にするのは当然だが,ITの世界では業界内の個々の企業までもが,業界のイメージを考えたり話題にしたりする機会が多いのではないか。そのため自然と,IT業界で働く人,あるいは,IT業界に入ろうとしている人も,業界のイメージを意識させられてしまっている気がする。

 こんなデータがある。

 経済産業省の外郭団体であるIPA(情報処理推進機構)が今年1月に発表した「IT人材市場動向予備調査 報告書」によれば,IT関連企業の“新卒採用に関する課題”として最も多かった回答は,「業界の仕事のイメージが良くない」だった(調査対象はIT関連企業約2000社,有効回答は350社,複数回答)。この回答を挙げた企業は全体の46.5%に達し,特に従業員1000名以上の大企業では60%を超えた。

 回答企業の多くが「業界の仕事のイメージ」として想定しているのは,いわゆる「新3K(キツい,厳しい,帰れない)」のことだろう。実際,納期の近づいた大型システム開発/統合プロジェクトなどの現場では,プロジェクト・マネージャやIT技術者たちが,質的にも量的にも過酷な仕事をこなしている。そんな現場で深夜も土日もなく働いている読者なら,「キツい,厳しい,帰れない」という言葉に心底共感されるのではないか。

 しかし筆者には,どうも「IT業界は3K」というイメージが一人歩きして,どんどん過大視されているように思えてならない。実際,日経コンピュータが実施した調査では,IT系の仕事に就いている人の方がそうでない人よりも,「現在の仕事に携わって良かった」と思う回答者の比率が高いという結果が出ている。これを見る限り,IT業界は3Kであるという単純かつ断定的なイメージには疑問符が付く。イメージが実態からかけ離れていると憤るIT企業の幹部がいるのも,そのためだろう(関連記事)。

 自分や同僚の仕事が3Kだと考えている人がIT業界に少なからず存在することは間違いない。しかし,そのことと「IT業界の仕事は3Kだ」ということは,だいぶ意味が違う。後者は,「IT業界の仕事というものは,一般的に(あるいは常に)3Kである」という普遍化されたイメージを生み出し,さらにそのイメージを「他の業界よりも(キツく,厳しく,帰れない)」と相対化している印象さえあるからである。

 問題は,こうした普遍化や相対化に,どれだけの根拠があるのかということだ。

 「IT業界=3K」を話題にする人(特にIT業界以外の人や,IT業界でもそういう現場に携わっていない人)が,そうしたイメージをどこで獲得したのかと言えば,多くはWebや新聞,テレビなどで発信された情報だろう。そこで試みに,Web(メディアやブログ)で発信されている情報を検索して,普遍化や相対化の根拠を探ってみたところ,ちょっと驚いた。IT業界の3K問題を扱ったWeb情報の大部分が,「言われている」「話題になっている」「だそうです」という伝聞形式なのだ。

 誤解のないように繰り返すが,個人が自分自身や自分の職場について3Kを話題にしている情報は結構ある。しかし,普遍化や相対化の根拠を示し,IT業界全体の構造的な問題として真正面から3Kを論じている記事はほとんど見当たらない。逆に,伝聞形式の情報の一部は,「・・・と言われているが本当か」と,疑問を呈する形で3Kに言及している。

 だとすれば,冒頭で紹介した新卒採用に関する調査結果や,3Kのイメージ定着を憤るIT企業幹部の気持ちもよく理解できるような気がする。3K問題だけではない。システム障害が発生すれば,その実質的な影響の大きさ以上に社会的責任を問われたり,無理解に叩かれたりする。その一方で,システム開発やシステム統合などのプロジェクトを完遂するという仕事の価値や,あらゆる社会インフラをITが支えているという事実に目が向けられる機会は少ない。こうしたことの積み重ねが,新卒入社を目指す学生や社会一般のイメージに影響を与えたとしても不思議ではない。

 ただでさえ,企業も社会も危機の時代を迎えようというときに,ビジネスやインフラを根底から支えるIT業界が活気を失うことは,日本の企業社会にとっても国民生活にとっても損失でしかない。IT業界が活気を失れば,IT業界で働いている人の元気を削ぎ,IT業界に入って来ようとする人の気持ちも萎えさせるだろう。ITはインフラだからこそ,活気のある業界で働く元気な人に作ってもらいたい,と筆者は考える。それこそイメージだと批判されるかもしれないが。

 IT業界と接点を持つメディアに籍を置く者として自戒も込めて言えば,IT業界の仕事の価値や意味,あるいはIT業界で働く人のやりがい,といったものに,もっと光が当たってしかるべきだ,と思う。危機の時代だからこそ,その思いを強くする。新しい年を迎えるのに当たり,ITpro編集部もそうした観点での情報発信について,真剣に検討を始めたところだ。

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