「今後、ケータイがますます重要になるのは分かっている。ただ、ケータイにいつ本腰を入れるべきなのか、まだ踏ん切りがつけられないんですよね」。日経ネットマーケティング2008年12月号の特集では、有力EC(電子商取引)サイト314社の実態調査のデータと、回答企業への取材を基に記事をまとめた。

 冒頭に挙げたコメントは、その取材の時に、あるECサイトの運営企業の担当者から聞いたものだ。いつ注力すべきか悩んでいる、といった話は別の企業を取材した時も耳にした。

 このアンケートでは、ECサイトの売り上げの伸びや、SEO(検索エンジン最適化)やLPO(ランディングページ最適化)などの実施状況について尋ねた。基本的にはパソコン向けのECサイトに関する内容が中心だが、ケータイ向けのECサイトについても取り組み状況などを調べた。パソコン向けのECサイトの運営企業がどの程度ケータイのECサイトに取り組んでいるのかを把握したいと考えたからだ。

 その結果を一つ、ここで紹介しよう。

問●発注可能なケータイ向けECサイトを構築していますか。(単一回答)

構築済み:51.3%
発注はできないが、サイトは構築している:3.8%
今後構築する予定:8.6%
構築を検討している段階:14.6%
全く予定はない:20.7%
無回答:1.0%

 この結果を見て、皆さんはどう思われるだろうか。回答企業の半数がケータイECサイトを構築しているというのは、意外と多いと思われるかもしれない。

 個人的には、もう少し高い比率になるのかと期待していた。「パソコン向けのECサイトを運営しているのであれば、ケータイECにも取り組んでいる企業が多いのではないか」と漠然と考えていたからだ。

リソースの制限と作法の違いが影響

 以前に取材で聞いた話などを含めて考えると、パソコン向けECサイトの運営企業がケータイECの展開をためらうのには、大きく二つの理由があるように思う。一つは、パソコン向けのECサイトに人員などのリソースを集中しようとする傾向があること。もう一つは、ケータイの世界の「トーン&マナー」の違いなどにとまどいを感じるからだ。

 「パソコン向けに注力したい」とECサイト運営企業が考えているのは、パソコン向けECでの競争が激しいことの表れでもある。今回の調査でも自由意見欄で「以前よりメルマガなどの効率が落ちている」といった不満が見られた。厳しい競争の中で、限られた人員や資金でやりくりしようとすると、販売チャネルをケータイにまで広げる余裕はないということだろう。

 一方で、半角カナや絵文字が平気で使われるなど、ケータイの世界の“作法”はパソコンとはかなり異なる。加えて、ケータイでもパソコンのように検索エンジンを利用して情報を探すことができるとはいえ、その精度はまだパソコン向けと同等といえるまでには至っていない。こうしたさまざまな違いに、パソコン向けのECサイトの運営者が戸惑うのも無理はない。まだ“感覚”がつかめていないのだ。

 しかし、こうしたサイト運営者の思惑とは関係なく、ユーザーはアクティブにケータイを使うようになっている。特に10代後半から20代前半の若者層にとっては、パソコンよりもケータイの方が身近な存在と言えるだろう。

 「ケータイで育った若者は、年を取ってもプライベートではパソコンを積極的に使わず、そのままケータイを中心に使い続けるのではないか」と懸念する意見を、以前にECサイト運営企業の担当者から聞いたことがある。それが現実になれば、ケータイECはきわめて重要な販売チャネル(そして顧客との接点)となることは言うまでもない。将来への布石という意味では、ケータイサイトを運営することがとても重要な意味を持つ。これはECサイトに限らず、多くの企業にとっても同様の状況といえるだろう。

 消費者や潜在顧客とどのように対話していくかは、企業にとって重要なテーマだ。「いつ注力すればいいのか」と悩む段階は過ぎており、ケータイの世界に身を投じてみる時期に来ているのではないだろうか。その上で、今後の変化を見極めた舵取りがケータイマーケティングでは必要となる。

 2009年度には、見逃せない“地殻変動”が起こる可能性もある。総務省の「通信プラットフォーム研究会」は、ケータイのキャリアが担ってきたポータルサイトや認証・課金の役割を、それ以外の事業者に開放、活用できるようにすることを提言した。新たなビジネスチャンスも生まれてきそうだ。こうした変化に企業はどう対応すべきかを考えるセミナーを、日経ネットマーケティングでは12月19日に開催する(詳しくはこちら)。興味のある方はぜひご参加いただきたい。