写真●良品計画のヒット商品「貼ったまま読める透明付箋紙」。空想無印というウェブサイト上で提案された顧客の発想を商品化した
写真●良品計画のヒット商品「貼ったまま読める透明付箋紙」。空想無印というウェブサイト上で提案された顧客の発想を商品化した
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 皆さんは良品計画が2008年1月から販売している「貼ったまま読める透明付箋紙」という商品をご存じだろうか。その名の通り半透明の付せん紙であり、書籍などの気になった所に張ったままその下の文字を読むことができるアイデア商品である(写真)。

 こう聞かされただけでは「どこにでもありそう」と思われたかもしれない。かくいう記者もそうだったし、実は良品計画自身がさほど売れるとは思っていなかったという。プラスチック製の透明な付せんは以前から販売していただけに、材料をプラスチックから紙に変えただけで売れるとは考えなかったのだ。

 ところが、この透明付せん紙は同社の当初予想を10倍も上回る売り上げを記録した。あまりの売れ行きに欠品を起こしてしまったほどだ。

 なぜこれほど売れたのだろうか。その最大の理由は、従来の常識とかけ離れた商品企画と販促のプロセスを採り入れていたことにあった。インターネットを介して群衆(クラウド)から知的労働力を調達する「クラウドソーシング」の成功例とも言える。

商品の企画出しともむ過程を群衆に委託

 従来の商品企画プロセスは、競合他社にアイデアを察知されないないように社内で取り組むのが一般的だった。ネット上で企画を議論するなどはあり得なかった。ところが良品計画は、アイデア出しから商品化までの過程の大半をインターネット上の一般顧客に委ねた。

 具体的な商品化までのプロセスはこうだ。

 まず、良品計画とデザイン会社のエレファントデザイン(東京・品川)が2007年から共同で運営するサイト「空想無印」の上で、商品の案を思いついた顧客が企画を披露する(参考記事)。この企画を別の顧客が閲覧し、改良すべき点を指摘したり、購入したいという賛意を投票したりする。発案者は意見を参考にしながら改良を施し、さらに企画をもむ。

 これらの過程を経て企画への賛同票が1000人分集まると、良品計画が商品化を検討。顧客の仮予約が300人分集まれば、正式に商品化が決まる。

 貼ったまま読める透明付せん紙も、このプロセスを経て生まれた。アイデアを出した顧客は、紙製のため書き込みやすい点などを訴え、プラスチック製よりも使い勝手で勝ることを示した。社内の企画担当者が思いつかなかった「ありそうでなかった商品」が、顧客の知恵によって生まれたわけだ。

顧客が自発的に販売促進に協力

 宣伝販促室の枚田正章e-マーケティング担当課長は、貼ったまま読める透明付せん紙のヒットの理由を「ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、顧客自身が手軽に情報を発信できる手段が広がったことが大きい」と語る。開発に関与した顧客がブログなどを駆使して商品の発売を告知し、その内容を閲覧した顧客の知人などがさらに宣伝に参加する。今回の貼ったまま読める透明付せん紙に限らず、「顧客の協力を得て開発した商品は、発売当初の売れ行きが一般の商品よりも良い」(枚田担当課長)傾向があるという。

 すなわち、クラウドソーシングを応用した商品企画は、発売後の販促活動にも大きな利点がある。アイデアや意見を書き込んだ顧客は、「企画・開発に携わった商品」として発売された商品に愛着を抱く。ロイヤルティーが向上するほか、自発的に販促に乗り出してくれる可能性があるからだ。

 米国発の金融危機の影響により、国内も景気後退期に陥る中で、従来通りの企画や販促がなかなか収益増に結び付きにくくなっている。良品計画の事例は、天才のひらめきや高度な技術革新をあてにせず、現場の業務プロセスを抜本的に見直すだけでも、新市場の発見や開拓を促進できることを示した好例だろう。

 こうした業務プロセスの変革によって新たな市場を切り開いた事例を、日経情報ストラテジーは2009年1月号特集「明日の顧客をつかむ現場プロセスイノベーション」にまとめた。良品計画のような顧客の知恵を借りるアプローチのほかに、「異業種で通用しているモデルを転用する」「顧客にとって重要性が低い価値を差し引く」といったアプローチを採用して業務プロセスを変革した企業を取材した。ご覧いただければ幸いだ。