写真●thinkCの総括シンポジウム第二部で開催されたパネル討論。右から津田大介氏,生貝直人氏,甲野正道氏,中山信弘氏,福井健策氏,松本零士氏
写真●thinkCの総括シンポジウム第二部で開催されたパネル討論。右から津田大介氏,生貝直人氏,甲野正道氏,中山信弘氏,福井健策氏,松本零士氏
[画像のクリックで拡大表示]

 すでに先月のことになるが,著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(think C)は2008年10月30日,「文化審議会『中間整理』とthink C 有志提言をめぐる緊急総括シンポジウム」を開催し,「保護期間延長問題と創作・流通促進に関する共同提言」を発表した。シンポジウムでは,提言作成にかかわった同フォーラム有志の報告に続いて,10月9日に発表された文化審議会著作権分科会の「中間整理」などをめぐるパネル討論が開催された(写真)。

 著作権保護期間の延長問題とは,現在の著作権法で著作権者の死後50年と定められている著作財産権の保護期間を死後70年に延長すべきかどうかという問題を指す。文化審議会著作権分科会の「中間整理」は,保護期間延長の意見と現行の保護期間を維持する意見を両論併記するにとどめており,保護期間を延長するかどうかは現在「継続審議」状態になっている(関連記事)。

 提言の内容はフォーラムのサイトで公開されているので,詳しくはそちらをご覧いただきたい。提言は「著作権保護期間は延長すべきでない」「日本版『フェアユース』規定を速やかに導入する」「流通・利用促進をはかる」「著作権だけに依存しない創作支援制度を創設・強化する」という4つで構成されている。同フォーラムはもともと保護期間の延長に疑問を持つ人々が中心となって「延長問題を考える」ために発足した組織だが,2年あまりの議論を経て,「延長反対」のための組織へと明確に舵を切ったことになる。

 第二部のパネル討論には,著作権法の権威である中山信弘・東京大学名誉教授,著作権法の保護期間延長問題が持ち上がったときに文化庁で著作権課長だった甲野正道・国立西洋美術館副館長,漫画家の松本零士氏,慶応義塾大学DMC機構RA(Research Assistant)でクリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局の生貝直人氏,それにthink Cの世話人であるジャーナリストの津田大介氏と弁護士の福井健策氏が参加した(写真)。

 パネル討論では冒頭,司会の津田氏が「この2年ほどの間,僕自身も審議会などに参加してきて,延長賛成派と慎重派の議論がかみ合わなかったように思う」と発言した後,参加者に対して「両者の議論がかみ合わなかった理由は何だったのでしょうか」と質問した。

 筆者自身も同フォーラム主催のシンポジウムなどで延長賛成派と慎重派の議論を何回か聞く機会があり,そのたびに津田氏が指摘するように「議論がかみ合わないな」という印象を受けてきた。乱暴に言ってしまえば,「保護期間の延長は著作者に対するリスペクトの問題である。だから死後50年ではなく死後70年に延長すべきだ」という賛成派と,「保護期間の延長によるメリット,デメリットを定量的に評価して議論しよう」という慎重派とは問題の設定がそもそも異なっており,いくら意見を交わしてもお互いの疑問に答えることにはならなかった。

 すべての議論の場に立ち会っていたわけではないので断言はできないが,「OECD(経済協力開発機構)加盟国における標準的な保護期間が70年だから,日本もそれに合わせて延長すべきだ」という賛成派の主張について,「保護期間の違いによる権利処理の煩雑さは実務上問題になるか」「欧米は自分たちの都合で保護期間を延長したわけで,日本がそれに合わせる必要があるのか」などの論点で議論が成り立っていたぐらいだろう。

 主観を交えて言えば,延長賛成派の一部の人たちは著作財産権を通常の財産権と同じものと見なしていたように思える。当日のパネル討論でも,延長賛成派の松本氏は「自分が家を持っていたとしましょう。(著作権が死後50年で消滅するのは)50年経ったらその家を誰でも使ってよいというのと同じだ」と発言していた。こうしたシンプルな主張に対しては,物理的な所有権と著作財産権の違い,著作権法が成立するまでの歴史的な経緯,著作権を含む知的財産権全般の法的な扱いを細かく説明しても,なかなか通じにくい。