絆には「きずな」と「ほだし」の2つの読み方がある。

 語源は犬などをつなぎとめる手綱。これが転じ,「断つことのできない人と人の深い結びつき」の意味で使われている。

 通常,絆は「きずな」と読まれ,深い人間関係を好ましい意味と捉える。しかし,「ほだし」は一転して深い人間関係を束縛と捉え,全く逆の意味となる。

 絆が持つ2つの読み方は,深い人間関係における二面性を的確に言い当てている。

若年層における人間関係の希薄化

 急速に変化している若年層の交流関係をつなぐ絆からは,深い人間関係を感じづらいことも多い。そのほとんどは,携帯電話やパソコンを使ったコミュニケーション手法に見られる。

 コミュニティ・サイトでは,仮想的な恋人や家族として見知らぬ人と交流することが珍しいことではなくなりつつある。代表例としては,ディー・エヌ・エーが運営する「モバゲータウン」で見られる「モバ彼(彼女)」「モバ家族」などがある。

 こうしたモバ家族なども含め,複数の相手と日に何十通も短文のメールをやり取りしたり,何十回もコミュニティ・サイトに書き込みする。その一方で,電話は3分の通話を「長電話だった」と感じる人もいる。また,無料通話時間内は常時接続しながらテレビを見たりインターネットを閲覧し,何かを思いついたときにだけ会話するという使い方も見られる。

 こうした事例から,携帯電話の利用動向に詳しいドコモ・ドットコムの村上勇一郎氏は「“ケータイ世代”には特定の人との深いつながりよりも,広くて緩いつながりの人間関係を好む傾向が見られる」と指摘する。「質よりも量」「効率性」などが重んじられているというわけだ。

 これを受け,若年層に人気のプリント・シール機(プリクラ)を開発する某大手メーカー関係者は「プリクラの本質は『関係性確認商品』。人気の根底には,若年層における人間関係の希薄化がある」と分析する。

 肌身離さず手にし,一見,若年層の人間関係をつなぐ絆の象徴にも映る携帯電話。しかし,そこにある人間関係は緩いつながりで,絆の本来の意味である深さがないこともある。「断つことのできない人と人の深い結びつき」ではないため,見知らぬ人との間で手軽に「きずな」を感じ,嫌なら簡単に無視することもできるので,極力,「ほだし」を感じずにも済む。実に合理的だ。