2009年6月から,インターネット・ショッピングで薬が買えなくなるかもしれない。薬といっても怪しげな違法薬物などではなく,一般医薬品のこと。街のドラッグストアや薬店で買える風邪薬や頭痛薬などのことだ。現在,厚生労働省が2009年6月からのネット規制実施に向けて省令を作成中。これに対して,楽天やヤフー,ケンコーコムなどが怒り心頭なのだ。

 あらかじめ申し上げておくが,筆者はインターネットの規制に何から何まで反対という立場ではない。危険なナイフや劇毒物は当然規制されるべきだし,監視の目を光らさなくてはならない。ただ,今回の規制については,「納得がいかない」というインターネット上の販売事業者の言い分もよく分かる。どうにも「臭いものにはフタ」的な要素が強いのである。

 2009年6月に施行されるのは,2006年6月に公布された改正薬事法である。この改正薬事法により,一般医薬品は新たに「一類」「二類」「三類」に分類される。薬の成分上,リスクの高いものから一,二,三と分類されるのだ。

 この分類に従って,販売者が規定される。これまでと同様,全種類の一般医薬品が販売できるのは,薬剤師を置く薬局・薬店など。そして新たに設ける資格取得者「登録販売者」を置く販売店は,二類と三類を売ることができる。ここの部分が改正薬事法による規制緩和の部分だ。コンビニなど終夜営業の店舗でも,登録販売者を置けば二類と三類の一般医薬品を販売できるようになるため,消費者の利便性が増すと期待されている。

 一方,インターネットなどの通信販売では,薬剤師や登録販売者を置いても販売できるのは三類だけとなる。これは,改正薬事法と同時に施行される予定の厚生労働省令に明記される。現在,インターネット上でも薬剤師を置く薬局はすべての一般医薬品が販売できている。にもかかわらず,2009年6月からは三類しか売れなくなる。その点について,ネット販売事業者が「規制強化」だと反発しているのだ。

対面の原則,コンビニでの運用はどうなる?

 では,なぜ一類と二類の医薬品は通信販売では売ってはいけないのか。厚生労働省によると,通信販売では「対面の原則」が守られないからだという。確かに通信販売では,購入希望者と店員が顔を突き合わせてコミュニケーションを取ることはできない。だがそのことが,医薬品販売において重大な差なのだろうか。

 ケンコーコムによると,医薬品を購入するには「問診票」に回答しないと先に進めなくなっているという。もちろん問診票には虚偽の書き込みも可能だが,そんなことを言ったら対面販売でも虚偽の申告を見破ることは難しいだろう。ケンコーコムのような運用を実施していない通信販売業者もあるかもしれない。だとすると,通信販売上のルールを整備すべきだ。一律に「通信販売はダメ」というのでは,合理性に欠ける。

 加えて筆者は,通販ではダメという二類の扱いに疑問を感じる。二類は,一般医薬品の6割以上が分類されるとみられる主要な医薬品。多くの風邪薬や鎮痛剤などが,ここに分類されると言われている。だからこそ,コンビニで買えると便利なのだが,登録販売者が販売時にきちんとした問診などを行うのだろうか。もしそれを厳格に運用するとなると,販売時の手間が増え,コンビニ側も医薬品の販売に慎重にならざるを得ない。結局,医薬品を置くコンビニは限定的になり,消費者の利便性もさほど上がらない。なんのための規制緩和か,分かりにくくなる。

 また,厚生労働省の言う「対面の原則」が改正薬事法の中ではうたわれておらず,厚生労働省が規定する省令でうたわれることもネット販売事業者が反発する点。厚生労働省の意図だけで「通販禁止」を打ち出したことになり,納得しがたい。

 厚生労働省の省令はまだ案の段階で,正式には決まっていない。しかしケンコーコムなどは,もしこのまま省令が施行された場合でも,これまでと同様に医薬品販売を続け,行政指導に対しては行政訴訟で対抗していく意向だ。ネットショップvs厚生労働省のバトルは,まだまだ続く見通しである。

 なおITproでは,この問題について,ネット販売事業者と厚生労働省の担当者に対するインタビューなどをまとめた特集を「コンビニOK,ネットNGの怪! 薬販売にネット規制の網」として集中連載中だ。興味のある方は,ぜひこちらもご覧いただきたい。