「すべての携帯電話がiPhone化していく」。ソフトバンクモバイルの孫正義社長は,2008年9月30日に開催された冬商戦向けの新製品発表会でこのように断言した。インターネットとの高い親和性,タッチパネルによる快適な操作性,ユーザーが自由にアプリケーションを追加できる拡張性。これらの特徴を持つ端末が次々に登場するという新潮流を,孫社長は冒頭の言葉で表現したのだ。実際,米アップルのiPhoneに続けとばかりに新世代のスマートフォンが相次いで登場し,携帯市場の中で存在感を出し始めている。

 ソフトバンクモバイルはシャープ,韓国サムスン電子,台湾HTCが開発した合計4台のタッチパネルを搭載端末を発表した(関連記事)。そのほかの携帯電話事業者にも動きがある。NTTドコモもシャープや台湾HTCの製品を発表した。既にイーモバイルはHTCの端末を2008年10月に発売している(関連記事)。NTTドコモやKDDIは,2009年にはAndroid端末の投入も計画している。

 かつてのスマートフォンといえば,業務で使うニッチ製品という印象が強かった。メールやオフィス文書の閲覧が主な用途で,いわば小型のパソコンに通信機能を付けた端末だった。一方,日本で普及してきた携帯電話は,音声端末をベースにして,メール,音楽,動画,カメラ,ワンセグなど個人ユーザー向けの機能を取り込み,独自の発展を遂げてきた。従来のスマートフォンと日本の携帯電話はそれぞれ個別に進化してきたが,その両者が今,歩み寄って融合しつつある。

iPhoneもWindows Mobileも絵文字対応

 その代表例がiPhone 3Gだ。7月に国内で発売となった時点では,日本の携帯電話と比べて「日本語の入力がしづらい」「絵文字メールが使えない」「ワンセグの機能がない」といった批判もあった。iPhoneがこれまでの携帯電話と大きく異なるところは,発売後にも進化を続け,上記のような問題点に対処しつつあることだ。9月にはファームウエアのアップデートにより,日本語の連文節変換に対応したほか,バッテリー駆動時間を向上させた(関連記事)。

 ソフトバンクモバイルは年内には絵文字メールにも対応すると発表した。孫社長は「日本では,絵文字がないとメールじゃないとアップルに一生懸命伝えた」(孫社長)という。さらに,iPhoneの周辺機器として,ワンセグ機能つきの外付けバッテリーを12月中旬に投入すると発表した。

 かつてはビジネス向けが中心だったWindows Mobile搭載機でも,日本の個人向けケータイが持つ機能を取り込みつつある。例えば,イー・モバイルが10月に発売した台湾HTC製のTOUCH DIAMONDは絵文字メール機能を搭載した。「日本のメール文化の核を押さえ,より日本のケータイに近づけた」(イー・モバイル)という。新世代スマートフォンを,これまで以上にユーザーに浸透させるには,日本のケータイへの歩み寄りが必須というわけだ。

 端末メーカー側も事業者の取り組みに対応する姿勢を見せている。台湾HTCの日本法人HTC Nipponのデビッド・コウ代表取締役社長は「グローバルの技術を日本に持ち込むと同時に,日本の技術やサービスも柔軟に吸収する」という方針だ。同社のTOUCH DIAMONDはイー・モバイルに加えて,ソフトバンクモバイルからも発売されるが,こちらでも絵文字メール機能を搭載する。

 一方で,海外製が中心だった次世代スマートフォンの機能を,日本のケータイが取り込むという方向性も出てきた。ソフトバンクモバイルが発表した「AQUOSケータイ FULLTOUCH SoftBank 931SH」は,ワンセグ,絵文字,おサイフケータイまで備えた“全部入りケータイ”だが,待ち受け画面にインターネットからの各種情報を表示するミニアプリを表示する「モバイルウィジェット」機能を追加した。画面を指でスライドして機能を選択する操作性はiPhoneに近い。iPhoneにおけるApp Storeのような「ウィジェットストア」も開設する。今後は対応機種を増やしていくほか,将来的は香港のチャイナモバイル,英国ボーダフォンと組んだジョイント・イノベーション・ラボ(JIL)を通して「世界最大のプラットフォームにすることを狙う」(孫社長)という。

 従来のスマートフォンの場合,一部の通信機器マニアが購入しても,一般層には広がらないという傾向があった。ある販売店幹部は「こちらは携帯電話,こちらはスマートフォンという境界がある。購入者の目線からは,普通のケータイとは違うものという意識が生じる」と指摘する。今後,両者のさらなる融合が進み,ケータイとスマートフォンという垣根がなくなったときが本格普及に向けた第一歩となるだろう。その際には,ネット連携,快適な操作,アプリの拡張性といった要素は低価格モデルにも取り込まれる。プラットフォームや機能の違いで区別するための“スマートフォン”という言葉はもはや消滅しているはずだ。

 なお,新世代のスマートフォンが業界に与える影響について詳細は,日経コミュニケーションの2008年11月1日号の特集記事にまとめている。ご興味のある方は併せてお読みいただきたい。