パソコンは昔に比べて驚くほど安くなりました。10万円も出せば,そこそこのスペックの製品が手に入ります。おそらく,多くの人が「パソコンは安価になった」と感じていることでしょう。

 ただ,世界を見渡すと,そうとばかりは言い切れません。途上国の人にとっては,たとえ5万円のパソコンでも月収の2~3カ月分になる場合もあるのです。そう考えると,非営利団体OLPC(One Laptop per Child)などが開発を進める,発展途上国向けの低価格パソコンは今後欠かすことのできない一つのカテゴリーになるのではないでしょうか。

 途上国では現在,ものすごい勢いでIT化が進んでいるといいます。そして,ITが途上国の人々に与える恩恵は,私たちが「ITによって便利になった」と感じるレベルをはるかに超えているのです。

 一つは,IT化によって途上国の人々が世界で活躍できるチャンスが生み出されていること。結果的に,これが国の経済発展や国の競争力に結び付きます。例えば,国際協力機構(JICA)がフィリピンに作った,プログラミングなどを教える専門学校が良い例です。この学校の卒業生には日系企業からのアプローチがひっきりなしに来るそうで,それまでは就職もできなかったような人が,いきなり月2000米ドルといった給料をもらえるようになるのです。こういったことが増えていけば,それが産業になり,経済発展につながります。

 ITは,情報伝達の手段としても,途上国に大きな恩恵を与えています。JICAによると,こんなことがあったといいます。

 ウガンダに,ピーナッツ農家を営んでいる一家がいました。ある日,仲買人の買い取り価格が安いんじゃないかと思ってネットで調べてみたら,もっと高く買ってくれる仲買人に出会えました。さらに調べると,ピーナッツをピーナッツバターにした方が高く売れると分かり,作り方をネットで調べて,ピーナッツバターを売るようになったそうです。

 小さなことに感じられるかもしれませんが,彼らにとっては,それで収入が変わり,生活レベルが全く違ってきます。「情報を得る」。このことは,彼らの命にかかわるくらい大切なことなのです。

 一方でJICAが切実に訴えるのが,「ハードよりソフト」ということ。もちろん安いパソコンは大歓迎。ただ,ITスキルやリテラシーを教える人,そのための資金,パソコンを利用した雇用機会の捻出,そういったところがまだまだうまくいかないといいます。特に,JICAが望むのは日系企業の奨学金によるサポート。発展途上国の子どもに教育のチャンスを与えてほしい,というのです。

 日系企業のサポートで未来のSE・プログラマーを目指す人材が増えれば,その中から,日系企業の力強いパートナーになってくれる技術者・起業家が誕生するかもしれません。パソコンを使って,途上国の子どもたちに“途上国ドリーム”をつかんでもらうことができたなら,それはパソコンがもたらす大きな恩恵の一つだと思うのです。