低価格ノート機はPCではなく、携帯電話の延長

色々出すという意味で、最近話題の低価格ノートPCはどうでしょうか。

内藤 私は、携帯電話から伸びてきた領域だと思うのですね。携帯電話でWebを見ることは見られます、メールも打てます。携帯電話のスクリーンやキーボードではちょっと不満だという方はBlackBerryみたいなものを使うわけです。それでもやっぱりもうちょっと、という方が出てくるのが、いわゆるNetBookの領域でしょう。

 ですから一連のNetBookジャンルの製品をPCのつもりでお買いになると、例えばThinkPadのXシリーズの代わりになると思って買われると、それはもう、かなりがっかりされると思います。あれはPCではないですから。あの値段で提供するとなると、やはりできることはあそこまでなんです。

 ああいうものが出てくると、PCは全部あれになってしまうのではないか、と心配してくださる方がいるのですけれども、私は全然そうは思っていません。今は高級携帯として使い、それでいいと思っている若い方が、PCに近いものをいったん使ったことで、徐々に本来のPCを使って下さる。つまり、PCのユーザーが増えていくと、私はプラスの方向として受け止めています。

低価格PCの話で、まっくた逆のアプローチを思い出しました。エグゼクティブ向けの超高級ThinkPadを出されていましたね、革張りの。アメリオCEOが持参されて、自慢しておられました。

内藤 うーん、革張りは少々行き過ぎて・・・。値段を高くし過ぎました。日本では売らなかったですけれど、日本円換算で50万円ぐらいにして、その代わり、買っていただいた方には、エグゼクティブ・テレフォン・ナンバーを差し上げて、「この番号にかけてくれれば、どんな夜中に電話をしていただいても何とかします」という破格のサポート付きで販売しました。サポートを付けて高く売ったので、正直言うと思っていたより買っていただけなかった。ですが、そういうコンセプトの商品だから、「これからは半額にします」とか言えません。だから思い切って止めました。買っていただいたエグゼクティブに対し、サポートは継続しています。

 あのマシンも非常に思いを込めて作りました。ご存じかどうか、ソメスサドルという、北海道にある、馬具を作っていた会社に革張りをお願いしたのです。青山にもお店があって、かばん、ハンドバッグ、財布、いろいろなものを作っておられます。あそこの革張りの技術は素晴らしいのですよ。私も北海道まで行って、革というのはどうやって縫うのか、というところからレクチャーをしていただいて作ったのです。それまで色々な革張りPCのプロトタイプを見せても必ず「ノー」と言っていたレノボのデザイナも、ソメスサドルさんに縫っていただいた革張りのPCを見せたら、うっとりした顔をして、「パーフェクト」と一言だけ、つぶやいたほどでした。

最後の質問です。さっきお話されていたように、ThinkPadといえばキーボードが有名でした。その後、ちゃんと進化しているのでしょうか。レノボになってから昔とは違う、という声も聞きます。

内藤 皆さんがいまだに一番好きだという、X600のキーボード、あれは電池がど真ん中にあって、レンガの上にキーボードが載っている格好でした。非常にカツンとくる、あの感覚がお好きな方はあれが大好きなのです。電池という、非常に硬いものの上にキーボードがぴったり載っていたので。どれだけマシンを重くしてもいいよ、というならがちがちに固めますけれども、そうもいかない。

 キーボードはいいか、悪いかではなくて、お客様にとって今までと同じか違う、という話なのです。でも、完全に同じものには、やはりならない。同じものを作りたいのだけれども、まったく同じキーボードを載せても、その下に何があるかで感触が違ってくる。キーボード自身のスペック、我々の評価基準、何一つ変えていません。「新しいThinkPadを買ったらキーボードが前より悪くて」ということは、私としてはないと確信しています。