直感に基づく物言いで恐縮だが、ITproの記事群を日々眺めている限り、パソコン(PC)が時代の最先端にいた時代は終わったように思えてならない。記事の量や読者の反応を見ると、検索エンジンや携帯電話といった製品が注目を集めている。

 「PCが時代の最先端だった時代」と書いたものの、実のところ筆者はPCをきちんと取材したことがあまりない。記者になった1985年はメインフレームの情報がもっとも重要であり、それ以外のコンピュータは添え物のようだった。メインフレームに詳しい先輩が何人かいたので、筆者はメインフレームについて書くのは早々に諦め、もっぱらオフコン(オフィスコンピュータ)のことばかり調べていた。

 その後、PCはメインフレームを超える一大市場を形成したが、オフコンは消えてしまい、筆者は製品について調べるのはほとんど止め、「動かないコンピュータ」などシステム開発プロジェクトを取材する道に進んだ。「失敗事例を数多く取材して書いたから、性格がここまで歪んだ」と時折つぶやいてみるが、なぜか周囲の誰一人として、同意も同情もしてくれない。

 こういう経緯があるので、90年代はPCのハードウエアについてもソフトウエアについても横目で見ていた。PCメーカーやPC用ソフト・メーカーが都内のホテルを借りて開く製品発表会に時折参加してみると、メインフレームやオフコンとは桁違いの数の記者が集まっていることに驚き、コンピュータ産業の栄枯盛衰を実感した。実際、15年から10年くらい前は、色々なPCが発表され、市場に活気があったと思う。

 昨今のPCを巡る話題と言えば、情報漏洩あるいはコストの問題か、最近登場した低価格機あたりである。どちらも重要な話なのだろうが、記者として取材したいかと聞かれれば、正直あまり乗り気になれない。一方、既存のデスクトップPCやノートPCに対しては、「必要は必要だから、買いたい時に一番安いものを買えばいい」といった態度をユーザー企業はとっているのではなかろうか。メーカーもブランドや独自機能にこだわるというより、ひたすら出荷台数を積み上げてコストを削減する、といった姿勢になり、体力消耗戦の様相を呈している。

 PCはイノベーションの余地がない成熟製品になってしまったのではないか。日本IBMでノートPC「ThinkPad」を作り上げ、現在はレノボ・ジャパンの取締役副社長として、ノートPCの設計開発を指揮する内藤在正氏に、しつこく聞いてみた。