ここにきてIPv4アドレス枯渇への対策の必要性が叫ばれるようになった。例えば2008年9月5日に発足した「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」。これは,総務省および通信・インターネット関連団体を中心に官民を挙げてIPv4アドレス枯渇対策に取り組もうとする動きだ。

 ちょっと事情を知っている人なら「またか」とか,「今度も大丈夫だろう」と思わず口走ってしまうのではないだろうか。実は,これまでにも何度もIPv4アドレスが枯渇すると騒がれたことがあったからだ。そのときは,CIDR(classless internet domain routing)やNAT(network address translation)などのいろいろなアドレス節約術が功を奏したり,アドレス消費の伸び自体が予測より減速したりということがあって,まだ枯渇までかなり余裕があるという結論になった。

今度は本当にIPv4アドレスが足りなくなる

 では今回はどうだろうか。早ければ2010年末にはIPv4アドレスが枯渇するというのは,確実視されている。今回の場合,本当にIPv4アドレスが残り少なくなって,予測のブレの余地はないという状況なのだ。

 実際,大手ISP(インターネット接続事業者)はIPv4アドレスがあと2年で枯渇するという予測を既に織り込んでおり,そこから逆線表を引いて間に合うように対策を進めつつある。その一つがIPv6である。さらに,ISPの中にNATを置いて,ユーザーにはプライベートIPv4アドレスを割り当てる「キャリア・グレードNAT」というドラスティックな手段も具体化しつつある。

 一方,データ・センター事業者には,ISPが持つ危機感が伝わっていない。まだIPv4アドレス枯渇という事態に気付いていない事業者や,気付いていてもまだ様子見しているという事業者がほとんど。このままでは,IPv4枯渇時に対応が間に合うか危惧される。

IPv6環境下でアプリケーションは動くのか

 ただ,データ・センター側のIPv6化対応はそれほど難しくないという見方もある。上流への接続回線のIPv6化はISPの分担になる。ホスティングに使うサーバーのOS,Webやメールといった主要アプリケーションはすでにIPv6対応が進んでいるからだ。

 しかし,ここに大きな落とし穴がある。そうしたサーバー上で動作する様々なアプリケーションである。

 一般的には,IPレイヤーはアプリケーションから隠ぺいされており,アプリケーションが直接IPレイヤーを意識する必要がないように作られているはず。だが,実際にはアプリケーションがIPアドレスを直接利用するように作られているケースは多いという。

 例えば,アクセス制御にIPアドレスを利用するケース。共用型ホスティング・サービスではよく使われる手法である。また,IPアドレスを格納するデータベースの領域を32ビットで作り込んでおり,128ビットのIPv6アドレスを格納できないようになっているケースもあるという。

 現在,IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースでデータ・センターに関する情報の取りまとめを受け持つのがテレコムサービス協会(テレサ協)である。そこでアプリケーション開発者の声を集めると,「そのようなアプリケーションの開発者にとって,IPアドレスの長さが変わるということは全くの想定外」(テレコムサービス協会 政策委員会副委員長,NEC 企業ソリューション企画本部エグゼクティブエキスパートの今井恵一氏)という。

 過去に作ったアプリケーションがIPv6環境下で正常に動作するかどうか今後膨大な検証が必要となってくるだろう。しかし,これから作るアプリケーションは,初めからIPv6を想定して作ることができる。これまであまりIPv6を意識してこなかったアプリケーション開発者の方も,今後はIPv6対応をぜひ念頭においてほしい。