見積もりの作成に時間がかかる。発注を決めた後の契約にも時間がかかる。しかも料金が高くなっている。提案を辞退されることさえある。以前に比べ、態度がずいぶん冷たくなっているように感じる――。ユーザー企業のシステム部門の担当者に日本のITベンダーへの意見を聞くと、こんな答えが返ってくることが多くなった。

 ここでいうITベンダーとは、システム構築を担当するいわゆるシステムインテグレータ(SIer)を指す。少し前まで、ITベンダーは多少無理をしてでもユーザー企業の要望をなるべく聞こうとする姿勢をとるのが普通だった。

 開発途中で「要件が膨らんでしまったが予算は増やせない。次の案件を御社に発注するから何とかしてほしい」とユーザー企業に言われたら、その要望を飲む。「基幹系システムを刷新したい。とりあえず何か提案して」という漠然とした要求に対しても、“行間”を読んで提案していた。ユーザー企業は神様である。言い分を何でも聞かないと競争に勝てない。すべての日本のITベンダーがこうした態度だったとは言えないまでも、おおむねこのような状況だったのではないか。

 しかし、今年の初めくらいから日本のITベンダーに確実に変化が起きていると感じるようになった。ユーザー企業に対する態度を硬化させるベンダーが増えているのである。

欧米化する日本のITベンダー

 なぜいまこうした現象が起こっているのか。日経コンピュータ10月1日号の「ユーザーの言い分、ベンダーの言い分」という特集向けに「ITベンダーの言い分」を取材した結果、わかったことがある。日本のITベンダーは良い意味でも悪い意味でも「欧米企業化」しているのだ。契約を重んじる。ユーザー企業との不要なトラブルを避ける。プロジェクトごとの利益率を重視する。こうした態度をとるようになっている。

 良い意味としては「適正な利益を得ようとしている」ことが挙げられる。ITベンダーはもちろん営利企業である。ボランティアでシステムを構築しているわけではない。「次の案件を取るために、赤字を覚悟で案件を取りにいく」というのが正しい姿勢とは言いがたい。次の案件が巨額の利益をもたらす保証もない。

 「付き合いが長いのだから、何とかしてほしい」という理由でユーザー企業が目の前のムリな案件をITベンダーに突きつけてきたとき、多くのベンダーは引き受けざるをえない状況だった。欧米化の結果、ITベンダーはこうした不利な立場から脱することができる。

 ある外資系ITベンダーの日本法人の幹部は「欧米ではITベンダーの利益率が10%以上ある。ところが日本では数%。日本のITベンダーがムリをしている証拠だ」と指摘する。いま世界で隆盛を誇っているインドのITベンダーでは、利益率が20%以上あるケースもあるという。

 ITベンダーが適正な利益を得るということは、「長い目でみてIT業界にとってもユーザー企業にとっても良いことだ」と、あるITベンダーのプロジェクトマネジャは主張する。利益率が上がれば、それだけ報酬も高くなる。その分、より良い人材が集まりやすくなるというわけだ。