企業にとって,自社のことや製品・サービスを知ってもらうためのWebサイトはなくてはならないものだ。今の時代,社内外の関係者やユーザーの多くは,Webサイトを通じて企業の姿を知ろうとする。これは,Webサービスやイーコマース(電子商取引)を提供している企業も同じである。ネット企業であっても,自社の姿をきちんと示すサイトは必要不可欠な存在になっている。

 しかし,「自社のことを知らせる」は意外と難しい。企業の姿をきちんとアピールするには,掲載しておくべき情報や,インターネット上で情報を出すことに対するリスク管理など,備えておくべき要件があるのだ。万人が利用できるような配慮や使いやすさも,利用者の満足度向上のために不可欠である。

 そこで『日経パソコン』は,国内の主要企業500社が運営するWebサイトを企業サイトとしての側面からとらえ,基本的な要件を満たしつつ,いかにビジネスに活用できているか,すなわち「企業サイトの有効活用度(有用度)」という観点で調査した。2007年に続いて2回目の調査となる。

 調査では,企業サイトの有用度を「基本情報」「ブランディング」「リスク管理」「使いやすさ」「アクセシビリティ」の5つの分野に分け,65の評価項目を設定。それぞれの企業サイトで各評価項目に対する対応状況を確認して得点化し,合計得点(100点満点)でランキングを算出した。

 ランキングの結果は,日経パソコン2008年9月22日号およびPC Online上の特設ページで公開している。調査結果の詳細は特設ページを参照いただくとして,今回は2008年の調査を通して見えた,企業サイトの最近の傾向について紹介しよう。今回のランキング調査において,最も強く印象に残ったのは,Webサイトでの企業の社会的責任(CSR)に関する情報提供についてだ。

CSR活動を独自指標で数値化

図1●大和ハウス工業では独自の基準を設定し,CSR活動を数値化している
図1●大和ハウス工業では独自の基準を設定し,CSR活動を数値化している
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 企業の不祥事が相次ぎ,CSRに対する意識が高まっている。ご存知の通り,CSRは環境,社会,経済の3つの観点を軸に企業の社会的責任を示す概念である。CSRへの対応が企業活動を進める上で重要な評価点になる。自社のCSRに対する考え方や活動の紹介も,Webサイトで行うべき重要項目の一つといえる。自社の活動を積極的に紹介するのに,Webサイトは効果的だ。

 ただし,企業サイトでのCSR情報が単なる自社の宣伝になってしまっては,訪問者の目にとまらない。CSRの推進を目的とする非営利団体(NPO),サステナビリティ日本フォーラムの伊藤佳代氏は「CSR情報を掲載する際には,ステークホルダー(企業の利害関係者)の意見を取り込むことが重要。特に従業員の眼を意識すれば,上辺だけでない本質的な情報を発信できる」と話す。

 最近では,CSR活動を独自の指標で説明する企業が出てきた。大和ハウス工業は,自社で一定の基準を設定し,CSR活動を数値化している(図1)。前年度の数値や今年度の目標値と比較することで,訪問者はCSR活動の進展具合をひと目で理解できる。単に「我が社はCSR活動に力を入れています」と主張するよりも,はるかに訴求力が高い。

 1年間のCSR活動をレポートとしてまとめ,Webサイト上で公開する企業も増えている。CSRレポートも自社の活動をアピールするだけでなく,外部の視点を取り入れることが重要だ。CSRレポートを作成するには,GRI(Global Reporting Initiative)と呼ぶ国際機関が定めているGRIガイドラインが参考になる。GRIガイドラインに沿ってCSRレポートを作成すれば「重要性原則など,国際的にも求められている内容に対応できる」(伊藤氏)。

クリック募金でページビューが激増

図2●第一三共はCSR関連サイト内に,クリック募金のページを用意する
図2●第一三共はCSR関連サイト内に,クリック募金のページを用意する
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 CSR関連で,もう一つ興味深い話題がクリック募金だ。医薬品業界では,自社のWebサイト上にクリック募金のページを用意する企業がある。クリック募金とは,サイトの訪問者がバナー広告などをクリックすることで,各種支援団体などに募金(寄付)する仕組み。実際の寄付金は企業が負担することが多く,サイト訪問者に金銭的な負担はかからない。これにより,企業は社会貢献活動をアピールする。

 第一三共も自社サイト内でクリック募金を実施する企業の一つだ。三共と第一製薬の2社の合併をきっかけに,2007年4月にWebサイトをリニューアル。その際,CSR関連サイトの中でクリック募金のページを用意した(図2)。

 クリック募金として,世界の医療,途上国の教育,地球環境の保全活動を支援する自然保護団体WWF(World Wide Fund)の「希望のふうせん」を採用。希望のふうせんページを訪れると,「世界の医療支援」「途上国の教育支援」「地球環境の保全支援」といった3つの風船画像が表示される。このうち自分が支援したい分野の風船画像をクリックすると,1回につき1円が第一三共によってWWFに寄付される。

 第一三共のコーポレートコミュニケーション部広報グループ長の田前雅也氏によると,「希望のふうせんページを開設したところ,サイトへの訪問者が急増した。サイト全体のページビュー数が1カ月当たり約55万なのに対して,CSR関連のページビューは約40万と最も高い割合を占めている」という。

 募金できるのは1ユーザーに対して1日1回まで。中には,毎日1回必ずクリックしに訪れる常連もいるとのこと。このような活動も,自社のCSRに対する取り組みを利用者に浸透させる上では有効だ。さらに,CSR関連サイトに多くの訪問者を誘導することで,クリック募金以外のCSR情報を見てもらえる可能性が高まる。

 今後,企業においてCSR関連の活動や情報提供が占める重要性は,さらに高まっていくだろう。自社のCSR活動を訴求するのにWebサイトは打ってつけのツールになるが,使い方には十分な配慮が必要だ。今回紹介した事例などを参考に,よりよい情報公開が進むことを願ってやまない。