最近,システム開発プロジェクトのチーム作りについて取材したとき,複数のプロジェクト・マネージャから立て続けに「ポテンヒット」「お見合いエラー」という言葉を聞いた。どちらも同じことを表しているのだが,ご存じだろうか。それはこんな意味だ。

 仕様変更などによって新しいタスクが生じたとき,チームの全員が「必ずしも自分の担当ではない」「他の人(サブチーム)がやってくれるだろう」と考える。自分のタスクだと思う人がいないので,そのタスクは放置される。タスクというボールを誰もキャッチしないので,ポテンヒット/お見合いエラーと呼ぶわけだ。

勝手な線引きや守りの姿勢が背景にある

 このポテンヒット/お見合いエラーは,プロジェクト・チーム作りに失敗したときに起こる典型的な現象だという。その背景にあるのは,サブチームや個々のメンバーが担当範囲を自分にとって都合よく線引きすることと,余計なことはしないという守りの姿勢を強めることである。

 仕事が忙しくなって今抱えているタスクで手一杯になれば,担当範囲を思いおもいに線引きしたり守りの姿勢を強めたりするのは,ある意味で仕方がないだろう。サブチームや個々のメンバーにとって,目の前にあるタスクを確実に片付けることが最優先である。

 しかしプロジェクト全体の視点に立つと,担当範囲の勝手な線引きや守りの姿勢は看過できない。それらが原因となって,チーム内の協力関係が損なわれるからである。むやみに「それは私の担当ではないから」と主張するメンバーが出てくると,互いに協力する雰囲気は急速に失われる。それによって,ポテンヒット/お見合いエラーもますます増える。ポテンヒット/お見合いエラーは,最終的に誰かが引き受けることになり,引き受けたサブチームやメンバーはやらされ感を覚える。これが,さらに守りの姿勢を強めて,チーム内の協力関係が損なわれる。

サブチームと別のサブチームの関係を定義する

 この悪循環に陥らないようにするには,どうしたらよいのか。

 真っ先に思い浮かぶのは,ポテンヒット/お見合いエラーが起こらないように,あらかじめサブチームやメンバー一人ひとりの役割を“すき間なく”定義することだろう。

 しかし現実的には難しい。そこで,ウルシステムズのあるプロジェクト・チームでは,サブチームの役割を定義するとき,必ず一覧表を作成して詳細に明文化する。その際,サブチームごとに他のサブチームとの関係が分かるように具体的に記述するのがポイントだという。例えば,プログラム開発チームを統括する「プログラム開発管理チーム」であれば,次のような具合だ。

・プログラム開発チームの作業調整を行う
・アーキテクチャ・チームが作成した開発標準をプログラム開発チームに教育する
・プログラム開発チームと共同で,詳細設計書を作成する

 こうした役割定義は,要件定義,基本設計,詳細設計といった工程別にさらに詳細化して記述する。このように,サブチーム同士の協業関係をできる限り明文化しておくことで,「この件は,うちのサブチームとあちらのサブチームで決めなければならないな」と考えるようになるという。

遊びでチーム内の一体感を生み出す

 役割定義とは全く違うアプローチだが,遊びの要素を取り入れ,チーム内の一体感を生み出すことも効果が大きい。

 電通国際情報サービスのあるプロジェクト・チームでは,メンバーの入れ替えがあるたびに,協力会社を含む約20人のメンバー全員で,ボウリング大会を開催する。ボウリングでは,会社やサブチームの垣根がなくなる。こういう場を適宜設けることが,チームの一体感ひいては協力関係を生み出すという。

 一方,TISのあるチームでは,仕事場でさまざまな遊びの仕掛けを作る。プロジェクト名が入ったおそろいのTシャツを作って全員に配る。プロジェクト名を彫刻した携帯電話用ストラップを作る。カットオーバーのときに割るくす玉を,みなで手作りする。こうしたちょっとした遊びの仕掛けによって,仲間意識が醸成されるのだという。それによって日ごろのコミュニケーションが活性化し,ポテンヒット/お見合いエラーを防ぐことができる。

 ここでは,ポテンヒット/お見合いエラーを防ぐ手だてとして,三つの現場における取り組みを紹介した。これらの取り組みはいずれも,強いチームを作る方策でもある。日経SYSTEMS10月号特集1「最強チームはこう作る」では,強いチームを作る方策やノウハウを,第一線のプロジェクト・マネージャ約30人に取材してまとめた。ぜひ読んでほしい。