多くの欧米企業はERPパッケージが組み込んでいるベストプラクティスに合わせて業務プロセスを標準化し、ITインフラを統一している。しかし、ほとんどの日本企業ではそれができていない。事業部や拠点、工場などによって業務プロセスや使用しているITインフラはバラバラになってしまっている。

 もちろん日本企業も、ただ手をこまねいていたわけではない。過去に多くの日本企業が欧米企業に肩を並べようと、業務プロセスの標準化やITインフラの統一に挑んできた。だが、その取り組みへの従業員からの反発は非常に大きい。ほとんどの試みが失敗に終わった。

 例えばメーカーの工場。日本企業の工場の多くが、独立した1企業のように競い合って発展してきた歴史を持っている。業務のやり方やシステムなども自工場のことだけを考えて決めてきた。従業員は長年培ってきた仕事のやり方に強いこだわりがある。システムを管理している従業員も、システムが変わり仕事が分からなくなることを極端に嫌がる。当然、現場は業務プロセス標準化などの取り組みに反対する。

 だが、市場環境が厳しさを増し、M&Aが活発化したことにより状況は変わった。今までは全くうまくいかなかった業務プロセスの標準化やITインフラの統一が、「M&A後のシステム統合」という枠の中では成功するようになったのだ。そこで日経コンピュータの2008年9月15日号では、システム統合を成功させた企業を取材し特集「欧米と肩を並べろ! 」を書いた。

 「M&A後のシステム統合」とは、M&Aで経営統合した2社のシステムを一つにすることだ。こういうと簡単な感じがするが、事はそう単純ではない。それぞれの会社のシステムや業務プロセスが、きっちりと一つになっている訳ではないからだ。

 経営統合したそれぞれの会社でも、各工場のシステムがバラバラである、といったケースは多い。システムを刷新したばかりの工場があれば、20年以上同じシステムを使用し続けているところもある。業務プロセスも全く違う。いったん両社のシステム統合プロジェクトが動き出すと、そのことが顕在化する。結果として、プロジェクトは全社レベルでの業務プロセス標準化などに発展する。

 経営者がM&Aを実施する背景には「これからは自社だけでは生き残れない。他社と力を合わせることが必要だ」という強い危機感がある。結果として経営者は、M&Aの効果を最大化するために必要な取り組みであるという認識で、システム統合についても主体的に指示を出す。

 システム統合に成功した企業は皆、経営者の強い指示の下にプロジェクトを進めている。システム部門は当初、「技術的に難しすぎる」、「業務プロセスを標準化したら反発が大きい」などプロジェクトの困難を予想して及び腰になるが、経営者が絶対にやれというのだから仕方がない。強い気持ちでプロジェクトに臨むことになる。

 M&Aがきっかけになっているため、それぞれの企業の業務プロセスが違うことは分かり切っている。現状の業務と照らし合わせて、どういった形で標準のプロセスを策定すれば無理がないかを慎重に検討する。出身母体の異なる従業員も、これからの業務がどうなるかを左右することだから、真剣に話し合う。

 各プロジェクトの詳細は特集で述べたため書かないが、M&A後ならではの状況が、今までできなかった業務プロセスの標準化やITインフラの統一を成功させる要因となっていることは間違いない。

 新聞は連日、日本企業の大型買収を報じている。ここ数カ月に限っても、数100億~数1000億円規模のM&A(合併・買収)がいくつもあった。国内のM&Aだけでなく、日本企業が海外企業を買収するのも、もはや“日常”になった感がある。

 ITpro読者の方は、M&Aを頻繁に実施する超大企業の方ばかりではないだろう。だが国内市場も含めたグローバル化が進むなか、中堅企業の中にもM&Aを実施したりシステムを統合する企業は現れている。また自身の所属する企業がほかの企業を“買う”ことはなくとも、ほかの企業から“買われる”ことはあるかもしれない。

 まだ数は少ないが、M&Aを実施していなくても、M&Aを実施した企業と同様の危機意識を持ち業務プロセス標準化やITインフラ統一に取り組む先進企業もある。どんな企業でも、“グループ内統合”も含めたシステム統合は他人事ではなくなってきている。

 経営者からいつシステム統合の指令が下るかも分からない。実際にそんな状況になった場合は、システム部門は経営者からの(滅多にない?)高い期待に応えて、自らの地位を向上させるくらいの気概を持って取り組むべきだろう。欧米水準のITが手に入るまたとないチャンスなのだから。