携帯電話向けサイトを作っている自治体は年々増えてきている。「e都市ランキング 2008」の調査によると、6割以上の自治体が携帯電話向けのサイトを作っていることが分かった。「せっかく広く普及している端末を利用しない手はない」ということで、携帯電話に注目する電子自治体関係者は少なくない。

 ただし残念ながら、今のところ自治体の携帯サイトはあまり見られていない。同じく「e都市ランキング 2008」の調査結果によると、自治体の携帯サイトの77.2%が月間1万ページビューにも達していない(携帯サイトを持つ自治体のうち、ページビューが「不明」と回答した自治体を除いて集計)。

 さらに高齢者となると、自治体サイトはほとんど見られていないようだ。

 高齢者、障害者の立場でマルチメディア、情報通信サービスを考えるボランティア研究会「老テク(老人を助けるテクノロジー)研究会」は、6月にある調査結果を発表した。「電子行政サービスに関するアンケート集計結果(全国版)」である。

 この調査には、パソコンユーザーである全国108人の高齢者が回答を寄せている。携帯電話の所持と利用動向について聞いたところ、81.5%(88人)の高齢者が携帯電話を持っていた。このうち84.1%(74人)の人が携帯電話でメールを使っていた。日ごろパソコンを使っている高齢者は、携帯電話も使いこなしている様子がうかがえる。

 ただし、携帯電話でインターネット(携帯サイト)を使っている人は31.8%(88人中28人)にとどまる。電子メールを使っている人と比べるとかなり少ない。さらに、自治体の携帯サイトを見たことがある人は、わずか2人だった。

 パソコンユーザー=新しいものに抵抗感が少ない高齢者と想定できるとすれば、高齢者全体で見ると、携帯サイトにアクセスしている人はもっと少ないと考えられる。

図●パソコンユーザーの高齢者は、8割以上が携帯電話を所持
図●パソコンユーザーの高齢者は、8割以上が携帯電話を所持
電子メールは8割以上が利用するが、携帯サイトの利用は3割程度。

高齢者と携帯、相性は悪くない

 どうやら今のところ、高齢者は携帯電話ではサイトをあまり見ず、携帯向け自治体サイトに至ってはほとんど見ていない。

 それでも、「携帯サイトと高齢者の相性は決して悪くない」というのは老テク研究会事務局長の近藤則子氏だ。高齢者は聴覚が衰えて電話の声がだんだん聞き取りづらくなる。このため大きな文字で読むことができるパソコンや携帯のWebサイトは重要な情報源になるのだという。しかも、携帯電話の方がパソコンよりも操作は簡単だ。

 また、自治体が発信する情報そのものについては、高齢者の関心は高い。調査に回答した高齢者108人のうち75人が「パソコンで自分の住む自治体のサイトを見たことがある」としているのである。

 先日、高齢者のICT利活用についての調査のために韓国を訪れた近藤氏によると、韓国では高齢者のパソコン利用促進のために、政府がかなりの支援をしているという。全国の高齢者パソコン教室への財政支援や講師となるICTリーダーの指導・養成、高齢者向けテキストの無償配布などが行われているというのである。

 近藤氏が韓国情報文化振興院(KADO)の担当者に話を聞いたところ、「役所や企業のオンラインサービスは国民に利用されなければ意味がない。若い人たちはどんどん使いこなしているが、高齢者は使い方をていねいに説明しなければ使えるようにはならない」という答えが返ってきたそうだ。

 日本の場合は、パソコンではなく高齢者が携帯電話を使ってインターネットを利活用できるように、政府(例えば「ユビキタスネット社会」を目指す総務省)が、もっと積極的に支援策を打ち出してもよいのではないだろうか。

 「海外の学会などで『らくらくホン』を見せると一様に感心される。日本の携帯電話は、方式はともかくこうしたユーザーインタフェースは世界に通用する」――ICT機器やWebのアクセシビリティに詳しい東洋大学の山田肇教授は以前、あるシンポジウムでこんなことを語っていた。高齢化社会への対応は先進諸国共通の課題だ。この分野で先陣を切ることができれば、グローバルの市場で優位に立つことができるかもしれないのである。

 高齢者が携帯電話の機能を使いこなし、(自治体の携帯サイトも含め)携帯サイトに続々とアクセスしてくるような日は来るのだろうか。もしかしたら遠い将来においても、そんな日は来ないかもしれない。でも、もしそんな日が来たら……と妄想してみる。まず、携帯端末によって高齢者のコミュニケーションの幅が広がることで、世の中の風景が変わってくるだろう。電子自治体サービスのあり方も大きく変わるはずだ。さらに言えば、「高齢者も携帯でインターネットを使いこなす国、日本」ということになれば、なかなか悪くない国家イメージを世界に発信できることになると思うのだが、どうだろう。

■変更履歴
「このうち4.1%(74人)の人が携帯電話でメールを使っていた」としていましたが、正しくは84.1%です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/09/16]