「映像配信サービスを,FTTH普及の起爆剤に」--。ここ数年,NTTグループの幹部は記者会見で,このような発言を繰り返している。ADSLなど,他のブロードバンド回線には提供していないテレビ向けの映像配信サービスは,光回線の高速性・利便性を訴える格好の材料と言える。しかし,足下ではグループ企業同士の連携のぎこちなさからから生まれたネーミングの混乱が,販売の足を引っ張りかねない状況になっている。

 NTT東西のFTTHサービス「フレッツ光シリーズ」には,光回線専用に用意されたテレビ向けの放送やビデオサービスがいくつかある。中でも「ひかりTV」と「フレッツ・テレビ」の二つは,NTTグループが運営に関わるサービスとして,プロモーション展開においても中心に据えている。これら二つには共通点がある。それは,今年になってからサービス内容をリニューアルし,名称も変更して再スタートを切ったという点だ。

 両サービスについて簡単に説明すると,まず,ひかりTVは,NTTコミュニケーションズ傘下のNTTぷららが運営するIPマルチキャスト方式の映像サービスだ。グループ連携の具体目標である「上位レイヤーの統合」の象徴として,「OCNシアター」,「オンデマンドTV」,「4th MEDIA」の3サービスを統合して3月にスタートした。放送とVOD(ビデオ・オン・デマンド)の双方を利用できる上,IP方式では初となる地上デジタル放送の受信も実現した。

 もう一方の「フレッツ・テレビ」は,スカイパーフェクト・コミュニケーションズの子会社オプティキャストが運営している放送のみのサービス。ひかりTVと異なるのは,光回線内にIP伝送路とは別に,RF信号を送る伝送路を設定し,アンテナから放送波を受信するのと同じ仕組みで放送サービスを提供することである。このため地上波だけでなくBS放送の再送信も提供できる。7月にこれまで「スカパー!光」として提供していたものを,再送信部分だけを切り出して「フレッツ・テレビ」という名称を付けて販売開始した。このサービスには専門の販売会社,オプティキャスト・マーケティングがあり,そこにNTT東日本が40.1%,NTT西日本が8.9%を出資する形だ。

「主導権争い」の結果,専門家さえ混同する名前が並立

 ひかりTVもフレッツ・テレビも,その名前から「NTTの光回線を使ってテレビで映像を楽しむサービス」だとすぐに分かる点では優れていると言える。

 問題は,どちらの名前も,同じ内容のサービスにしか聞こえないことだ。光回線で映像配信サービスを楽しもうと考えるユーザーが,契約時に店頭で「この二つのうちどちらかを選べ」と言われても,名前からは違いを認識できない。結局,両サービスの料金や内容を比べ,違いを理解するといった手間がかかることになる。せっかくの分かりやすい名前が,これではもったいないのではないだろうか。

 実際に,筆者も取材先で二つの名称を混同しているケースに出くわす。この分野に詳しいはずの取材相手から,「フレッツTV」とか「ひかりテレビ」といった,どちらともとれない名前が飛び出してくるのだ。その度に,「どちらのサービスのことですか?」と問い直すことになっている。

 こと一般ユーザーにいたっては,内容を理解した上でも,契約する段階でもう一方のサービスの名称を指してしまう,といったトラブルがひんぱんに起こりそうだ。あるいは違いを認識できずに,サービスへの加入を躊躇することにもつながりかねない。

 こうしたネーミングになってしまった背景には,それぞれの運営主体が,NTTコミュニケーションズ陣営とNTT東西陣営とに分かれていることがある。どちらも自社陣営の映像配信サービスを光回線とセットで売りたい。そのために両陣営とも光回線と直結する名前を付けた。このようなユーザー不在の主導権争いの結果,間違えやすい名前が並立することになったのだ。NTTグループの現組織体制の弊害が端的に表れた例と言えよう。

 NTTグループはこの混乱をどう収めるのか。実は今後,IP方式のひかりTVでも,RF方式のフレッツ・テレビでもどちらのサービスも受信できる統合セットトップ・ボックス(STB)を投入する計画だという。

 このSTBがあれば,1台で双方のサービスに加入できるようになる。サービスの違いを認識しなくても,まずはどちらかのサービスに加入してもらえば良いという考え方のようだ。例えば,BS放送を見たくてフレッツ・テレビに加入したユーザーが,後からVODも楽しみたくなれば,ひかりTVにも追加で加入することが容易になる,という。確かにそれも一つの解決策かもしれない。だが,そこまでするのであれば,双方のサービスを統合し,共通の名前にすることを考えてはどうだろうか。