中堅・中小SIerの間で、思った以上に経営に対する危機感が高まっている。経営者は、生き残りのための手段を真剣に模索し始めた--。最近、立て続けにこう考えさせられる出来事が二つあった。

敏腕コンサルタントの皮膚感覚

 一つは、「IT一番戦略の実践と理論」というタイトルの書籍を編集したことだ。この書籍は、日経ソリューションビジネスで「中堅・中小SIer必読!ビジネスモデルの再構築法」という連載を寄稿してくれた船井総合研究所の経営コンサルタントである長島淳治さんの活動の集大成とも言えるものである。

 この書籍で、長島さんは繰り返し中堅・中小SIerの経営が二極化しつつあることを指摘している。元請けから発注価格の低減を要求され、経営不振にあえぎ強い不安を感じる企業。もう一つは、システム開発の世界に可能性を感じ、15パーセントの売上高営業利益率を実現する企業である。

 そして、経営不振の企業を中心に、「明日が見えない」といった言葉で、経営への不安を感じるSIerのトップが増えていることを長島さんは指摘する。編集段階の原稿を読みながら、この言葉に強い印象を受けたのだ。

 長島さんの書籍は連載を基にしたものだ。連載中、そして連載後の2008年2月に開催したセミナーの反響が高かったため、書籍化に踏み切った経緯もある。

 もう一つは、SIerなどへのコンサルティング業務などを手掛ける豆蔵OSホールディングスが8月に開催した「IT企業経営近代化推進セミナー」というイベントである。同社によれば、このセミナーを申し込んだ企業は116社、そのうち代表取締役の割合が68パーセントに達したという。

 最も気になったのは、イベント告知のダイレクトメール(DM)を送付したところ、返答率が7.5パーセントにも達したということだ。SIerの業界団体の加盟企業などを対象にしたDMで、参加は無料だったとはいえ、この数値は一般的なDMの回答率から比較すると考えられないほど高い。

 このセミナーの参加者を対象にした懇親会に顔を出したが、実際に大勢のSIerのトップが参加していた。そこここで熱心に名刺交換する参加者からは、生き残りにかける熱意が伝わってきた。

IT一番戦略と持ち株会社化

 もっとも、船井総研の長島さんと豆蔵OSホールディングスが提案するSIer生き残りのための施策には、異なる面がある。

 船井総研の長島さんが提案するのは「時流適応 力相応一番」の勧めである。他社に負けない一番になれる市場を見つけ、その分野に全力を注ぐことで強い企業になろうというものだ。

 長島さんの考えが面白いのは、これを実現させる独自の手法があることだ。長島さんが考案した「IT予算帯方程式」というものを使って、自らが実現可能な範囲で一番になれる市場を定量的に見つけることができるのである。その上で、見つけた市場に向けて売れる商品を作っていくことで、企業の収益力を高める。また長島さんは、技術者出身の社長が多い中堅・中小のSIerにはマーケティングとセールスについて正しく理解し、適切に取り組むことが大切だとも指摘している。

 豆蔵OSホールディングスはグループ企業などを通じ、中堅・中小SIerの経営強化のための方策として、企業の実力を診断するプログラムのほか、営業力の強化や新技術導入、協業の促進、要求開発を含めた上流工程支援など各種のコンサルティングサービスを提供する。同社がユニークなのは、生き残りの一つの策として企業統合を提案していることだ。具体的には、持ち株会社を設立し、SIerをはじめとした複数のハイテク企業が傘下に入ることで、企業規模を拡大する方法などである。

 同社の荻原紀男代表取締役社長は以前にも、UFDホールディングス(2006年にジークホールディングスと合併)という持ち株会社の設立にかかわった経験を持つ。以前、荻原社長にインタビューしたことがあるが、同氏は独自の技術やノウハウを持つ中堅・中小SIerについて、持ち株会社を使った統合などによって収益力を高めることの意味について解説してくれた。現実にも、持ち株会社化による企業統合に限らず、企業規模の拡大を目的としたSIerの合併や買収は増えている。

 SIerの規模と経営の関係については、豆蔵OSホールディングスが好意で送ってくれたIT企業経営近代化推進セミナーの資料に面白いものがあった。SIerの経営に詳しく同セミナーに講師として参加していた、インターフュージョンコンサルティングの奥井規晶代表取締役会長が、売上高100億円未満ソフト/コンテンツ開発企業の利益率を調査したものだ。同氏の分析によれば、売上高40億円と80億円を境に、業績の安定度に大きな差が生じるのである。

 売り上げはすべてを癒やすといわれる。奥井会長の分析は上場企業の中から50社を抽出したものであり、すべての企業に当てはまるとは言い切れないかもしれないが、規模の大きな企業の方が業績面で安定しているという結果が出たのは事実だ。