日経情報ストラテジー9月号で「メンタルヘルス改革」と題した15ページの特集記事を執筆した。社員のメンタルヘルス(心の健康)を重要な経営課題として見なして、その改善に当たることの重要性を説いたものだ。IT(情報技術)活用の事例を紹介することが多い本誌としては珍しい。しかし、取材しているうちにメンタルヘルス改革とIT活用にはいくつかの共通点があると気づいた。

 まず、「誰」が主体的にメンタルヘルスの改善に取り組むのかという点だ。もちろん個々の社員の心の問題なので、社員一人ひとりがうつやストレスマネジメントについての知識を深めることは大切である。メンタルヘルスについての冊子を配ったり、社内でセミナーを開いたり、電話やメールによる相談窓口を用意したりといった個々の社員への情報発信などが考えられる。

 しかし、こうした施策を行き当たりばったりに導入するのは好ましくない。社員の就労状態などをしっかりと把握して、そのうえで必要な施策を打つことだ。最近、現状把握から対策の立案・実行までを外部のEAP(従業員支援プログラム)ベンダーに頼り過ぎる企業が少なくない。EAPベンダーは社員のメンタルヘルスの改善に関して多くのノウハウを持つコンサルティング会社である。社員のストレス状態の把握や、メールや電話での相談窓口の開設などを得意としている。

 自力では難しい作業をアウトソーシングするのは良いが、システム構築と同じで業務を完全に丸投げしては社内にノウハウは蓄積しない。効果的なメンタルヘルス対策の仕組みを作っている企業では、総務や人事の担当者が産業カウンセラーの資格を取得したり、ストレスマネジメントの手法について学んだりと非常に意欲的であった。EAPベンダーと総務・人事のメンタルヘルス担当者の関係は、ITベンダーと企業の情報システム部門のそれに似ている。

 次の共通点は「見える化」である。IT導入の目的に「見える化」が挙がることは多い。売り上げや在庫、生産現場の進ちょく状況といった様々な指標の見える化によって業務改善は一気に進む。メンタルヘルス改善においても社員のストレスの可視化は非常に重要である。数十問のアンケートから、部署や年齢ごとにストレスのレベルがどのような高さになっているのか、その要因はどのようものなのかなどを分析できる仕組みが大企業を中心に広まりつつある。EAPベンダーが提供する場合もあれば、簡易版を自社で作ってしまうこともある。日経情報ストラテジー9月号の特集では日産自動車や三井化学の取り組みを記事にした。

 そして最後は経営陣の姿勢だろう。社長がITに詳しくないからといって専門部署に任せ切りになっていたり、ITが費用対効果の見えないブラックボックスになっていたりすれば、その企業のIT活用は思うような成果を上げられない。これもやはりメンタルヘルスと同じだ。経営陣が社員のメンタルヘルス問題を経営の俎上(そじょう)に載せることから改革は始まる。特集では「制度」「風土」「人づくり」という3つの観点で先進企業の取り組みを紹介した。最近部下や同僚の元気が無くなってきたと不安を覚えている方々には、ぜひ読んでもらいたい。