結論から書こう。64ビット版(x64)Windows Vistaの最大の欠点は,16ビットのアプリケーションが動かないことだ。これは米MicrosoftがWindows XPのx64を作るときに仕様を決めたもので,16ビット・アプリケーションが動かないように作ったのだから,動かないのは当たり前だ。

 今から5年ほど前に,その仕様をプレゼンテーションで聞いたあとで,「16ビット対応はもう不要だと考えているのか?」と手を挙げて質問したことを思い出す。「あなたは今でも16ビット・アプリケーションを使っているのか?」と逆に問われた。もちろん私は「使っている」と答えたのだが,その時点では,x64のWindowsで自分が16ビット・アプリケーションを使うかどうか,確信が持てなかった。その時点で私の頭の中に真っ先に浮かんだのは1992年に購入したPaintShop Proのバージョン1(英語版)だが,さすがにこれはもう,使うのをやめてもいいかなと思ったりしたのである。

ソフトをインストールできない

 ところが,実際にx64のVistaを使い始めると,16ビットのコードが動かないことの影響は意外に大きかった。まず,32ビットのアプリケーションだと思っていたものが,インストールできない。

 例えば,1999年にリリースされた米Adobe Systemsの画像編集ソフト「Adobe Photoshop 5.0 Limited Edition(LE)」(図1),1997年にリリースされた独OpticomのMP3ファイル生成ソフト「.mp3 Producer」(図2)がそうだ。

図1●1999年にリリースされた,米Adobe Systemsの「Photoshop 5.0 LE」。低価格が魅力的だった
図1●1999年にリリースされた,米Adobe Systemsの「Photoshop 5.0 LE」。低価格が魅力的だった
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図2●1997年にリリースされた,独Opticomの「.mp3 Producer」。独Fraunhofer IISのエンコーダが魅力的だった
図2●1997年にリリースされた,独Opticomの「.mp3 Producer」。独Fraunhofer IISのエンコーダが魅力的だった
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 図1も図2もx64 Vistaの上で動いている様子だが,この二つのソフトはどちらも,インストーラが16ビットのコードを含むため,x64 Vistaに通常の方法で(インストーラの実行ファイルを開くという操作で)インストールすることはできない。

 図3は,x64 VistaでPhotoshop 5.0 LEのインストーラ「SETUP.EXE」を実行したときに出てくるエラー・メッセージだ。図4はx64 Vistaで.mp3 Producerのインストーラ「opticom.exe」を実行したときに出てくるエラー・メッセージだ。x64 Vistaでは16ビットのコードが動かないと知っていれば理解できるが,多くのユーザーはx86(32ビット版)とx64のWindowsがあることさえ意識していないだろう。ユーザーが図3や図4のようなエラー・メッセージを目にする場面を想像すると,恐ろしくてx64 Vistaのプリインストールなぞできない,と多くのパソコン・メーカーは考えるだろう。実際,x64のWindowsがプリインストールされたパソコンはほとんどない。

図3●x64 VistaでPhotoshop 5.0 LEのインストーラを動かすと現れるエラー・メッセージ
図3●x64 VistaでPhotoshop 5.0 LEのインストーラを動かすと現れるエラー・メッセージ
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図4●x64 Vistaで.mp3 Producerのインストーラを動かすと現れるエラー・メッセージ
図4●x64 Vistaで.mp3 Producerのインストーラを動かすと現れるエラー・メッセージ
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