東京都の「環境確保条例」の改正案が6月下旬に成立し,約1300の大規模事業所に温室効果ガス排出の総量削減が義務づけられることになった。2020年までに,東京の温室効果ガス排出量を2000年比25%削減するという中長期目標の実現に向け,具体的な対策が動き出したわけである。

 2005年度からスタートした現行の「温暖化対策計画書制度」では,大規模事業所に対して削減計画書と取り組み結果を提出させ,東京都が指導や助言を行うというものだった。だが,事業所の自主的な削減取り組みに委ねているだけでは中長期目標の達成は困難となり,業務・産業部門への規制が“総量削減義務”へと強化されることになった。

 今回の条例改正で,温室効果ガス削減義務を負うことになる大規模事業所は,現行の「計画書制度」の対象とほぼ重なる。燃料や熱,電気の使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上の事業所に加え,新たに一定規模以上のテナントビルも規制対象にする。

 対象事業所には基準排出量と削減義務率が設定され,両者を掛け合わせた数値が,その事業所の削減義務量となる。それを5年の計画期間(第1期間は2010~2014年度)に削減しなくてはならない。削減義務量を自らの事業所での取り組みで確保できない場合,排出量取引によって他者の削減量を取得することが求められる。それでも削減できない場合には措置命令が出され,違反すれば事業者名を公表するほか,50万円以下の罰金が課せられる。

 それでは,基準排出量と削減義務率はどれくらいになるのか。実はまだ具体的なルールは決まっていない。これから専門家検討会で議論を進め,2008年度末までに削減義務率や削減期間などを定める規則を決定し,2009年の夏から基準排出量の算定・検証開始,2010年4月から削減義務を開始するというスケジュールである。

 気になる削減義務率だが,産業や業務といった業態や,建物・設備の状況(削減余地)に応じて設定される見込みだ。現行の計画書制度の下で削減に取り組んだ1000数百の事業所の実績を見ると,2006年度のCO2排出量は,基準期間(2002~2004年度)の平均よりも3.5%減となった。毎年1%強削減できた計算になる。これは国の省エネ法の削減目標である年率1%に近い。東京都は20年間で15~20%削減という目標を設定しており,さらに大幅な削減義務率を設定する可能性が高い。

 「2010年からの当初5年間の削減義務率は,平均で10%程度に設定されるのではないか」。こうした見方を示すのは,主に業務用施設のESCOサービスを手がける日本ファシリティ・ソリューション常務取締役第一営業本部長の小熊啓一氏だ。同社は2000年の設立以来,72件の施設の省エネ支援を実施したが,平均で10%前後のCO2削減効果を達成したという。削減義務率の予想もこうした実績に基づいている。

 とはいえ,2006年度の実績では,工場など産業部門のCO2排出量が7.7%減だったのに対し,1000カ所近くある業務部門(オフィス,ホテル,レストランなど)の削減率は0.6%にとどまる。工場ならば,ボイラーの燃料を重油から都市ガスに取り換えるだけでCO2排出量を大幅削減するといった対策もあるが,オフィスはそう簡単ではない。空調,照明,電子機器の消費電力削減に地道に取り組むしかなさそうだ。

“テナントだから”と安心してはいられない

 「燃料や電気の使用量が基準に届かないから,うちは規制の対象外」「うちはテナントだから大丈夫」と高をくくっている事業者も安心できない。今回の条例改正では大規模なテナント事業者も規制対象としたからだ。

 現在もビルの延べ床面積の約半分以上を使っているテナントなどは都に省エネ対策を報告する義務がある。2010年度以降は,すべてのテナント事業者がビルオーナーの削減対策に協力する義務を負うことになる。また,テナントが借りている床面積やエネルギー消費量によっては,都に温暖化対策計画書を提出する義務も課せられる。

 こうして見てくると,自分のオフィスのエネルギー消費の水準は世間的に見てどれくらいなのかと気になる人も多いだろう。そんな時,都が計画書制度の対象事業所からの報告をもとにまとめた「省エネカルテ」が参考になる。これは,事務所ビルやテナントビル,商業施設,医療施設といった8業種(用途)別に,建物の延べ面積当たりのエネルギー消費量を集計したもの。そこに自社オフィスのデータをプロットすれば,同業種の中でどれくらいのレベルにあるかがわかる。

 省エネカルテでは,事業所の床面積と,エネルギー消費原単位(1平方メートルあたりのエネルギー消費量)との関係グラフの中に,特に赤い線で「上位25%ライン」というのが引かれている(図1)。エネルギー消費原単位の小さい順に並べた時,上位25%に位置する事業所のレベルを示したものだ。まさにオフィスの省エネのトップランナー制度と言うべきもので,このレベルを目標に各事業所は対策を進めるべきだろう。

図1●テナントビルの床面積と,エネルギー消費原単位(1平方メートルあたりのエネルギー消費量)
図1●テナントビルの床面積と,エネルギー消費原単位(1平方メートルあたりのエネルギー消費量)。赤い線は「上位25%ライン」。エネルギー消費原単位の小さい順に並べた時,上位25%に位置する事業所のレベルを示しており,このレベルを目標に各事業所は対策を進めることが求められる。集計対象事業所は200。出典:『東京都★省エネカルテ』

 ちなみにテナントビルのエネルギー消費原単位の「上位25%ライン」は,2080メガジュール(MJ)/平方メートルである。早速,2005年末に移転した弊社オフィスのエネルギー消費原単位を算出してみたところ1000MJ/平方メートルほど。なかなかいい数字なのでほっとした。2005年の夏から弊社のオフィスでは空調温度を28℃に設定しており,時々室内が異様に蒸すことがある。うちわであおぎながら原稿を書くこともしばしばだが,省エネに寄与しているようなので納得することにした。

 現在,都が頭を悩ませているのは,データセンター(電算ビル)である。エネルギー消費原単位の平均はなんと7600MJ/平方メートルで,事務所ビルの平均(2400MJ/平方メートル)の3倍以上。サーバーなどIT機器の省電力はもちろん,空調や建物の構造まで抜本的な対策が必要だろう。