日経ソリューションビジネス7月15日号
日経ソリューションビジネス7月15日号

 “しびれるような”とは、多少乱暴だが、ITソリューションが劇的なほど大きな夢を生み出せるという意味である。あるいは、ITソリューションの仕事にかかわる人間には、それだけの大きな夢を描くチャンスがあるということでもある。

 最近の仕事を通じて、記者はこうしたことを確信するようになった。今回の記者の眼はこのことについて書くつもりだ。

苦闘の特集取材の果てに

 最近の仕事とは、所属する日経ソリューションビジネスの300号記念で「夢」をテーマにした特集を同僚記者と執筆したことである(写真)。企画がスタートしたのは今年春。「普段書いているような特集にはしない。ITソリューションにかかわるすべての人に、『自分は夢のある仕事をしているんだ』と思ってもらえるものにしよう」。編集長の鶴の一声で決まった。

 「面白い取材がたくさんできそうだ」と思い、記者はすぐに手を挙げた。心当たりのある取材先を洗い出してインタビューを依頼するに当たり、仮のタイトルを「ITソリューションには『夢』がある」と決めた。ここまでは順調だった。

 だがあまりにもテーマが漠然としており、その後は簡単にはいかなかった。分かっていたつもりだったが、取材も執筆も想像以上に苦労した。社内の同僚や、日頃お世話になっている取材先にヒアリングしながら方向付けをしようとしたが、なかなか「これこそ夢だ」というような具体的なアイデアが浮かんでこない。正直言ってこの頃は、企画会議の時間になると気が重かった。

 夢という字を書にしたためて題字にすることは、早い段階で決まっていた。題字の製作は、書道家の武田双雲氏に依頼することになった。武田氏は「愛・地球博」の題字など多方面の活動で知られている。こちらの趣旨を伝えたところ、快く引き受けていただいた。武田氏自身がIT業界に身を置いていたことがあり、本誌の読者でもあったと、同氏の事務所の方から聞いた。今だから書けるが、ある時期までは、締め切りのかなり前にデジタルデータで送られてきた武田氏の「夢」が、記者の心の支えだった。

プロの言葉が胸に飛び込んできた

 視界が開けたのは、一見地味な開発作業に取り組んでいたり、無理難題と思えるような案件に臨んでいたりしながら、その中に自らの「夢」を見出しているプロフェッショナルを取材してからだ。

 最初にこれはと思ったプロは、グループウエアベンダーのサイボウズを創業した高須賀宣氏だ。同氏は、大手メーカーの技術者だった20代後半に社内ベンチャーを立ち上げその後、サイボウズを設立した。現在は、米国オレゴン州ポートランドを拠点に、新たなネットサービス会社のルナーを経営している。ポートランドにいる同氏に取材を申し込んだところ、偶然にも数日後に来日するということで直接、お会いすることができたのだ。ラッキーだったのかもしれない。

 インタビューは、ITベンチャーの経営者として実践してきたビジョンを聞く形で始まった。話が進むにつれ、高須賀氏は経営者ではなく、一人の技術者に戻っていた。そしてプログラムを作る仕事の醍醐味や喜びを、身振り手振りを交えながら語り続けていた。その姿を見るうちに記者は話に引き込まれ、インタビューはあっという間に終わりを迎えた。

 インタビューの中で高須賀氏は「ソフト開発者として駆け出しの頃、コーディング作業がうまく進んで、“ビビビ”としびれるような楽しさを感じることがあった。これが今も追い続けている夢の原体験になっている」と語った。この言葉が、記者の胸に飛び込んできた。この時、ひょっとしたら行けるかもしれないと思った。