筆者は現在,71日間に及ぶ米国取材の成果を「クラウド・コンピューティング特集」としてITproに掲載すべく,悪戦苦闘している。本来であればこの「記者の眼」は,その特集記事の紹介に当てるつもりだった。ところが無情にも特集が完成する前に締め切りが来た。そこで今回は,記者が米国で何を見て,これから何を書こうとしているのか,実録風に紹介させて頂きたい。

2008年3月:出張準備

 筆者は今回,4月6日から6月15日まで,米国サンフランシスコを中心に,米国IT事情に関する現地取材を敢行した。長期出張のきっかけとなったのは,2008年1月末に起きた,米Microsoftによる米Yahoo!への買収提案だった。

 「MicrosoftがYahoo!を買収しようとしている」という噂は前々からあったが,なぜMicrosoftがこれほど必死になっているのか,われわれはその真意を掴みかねていた。その理由を肌で感じるために,とにかく米国に行ってこい--というのが,上司から筆者に課せられた出張のミッションだった。

 また4月から6月にかけて,米国では様々なIT関連のイベントが集中して開催される。4月には「RSA Conference」「Web 2.0 Expo」「Interop」「Microsoft Management Summit」,5月には「JavaOne」「Citrix Synergy」「Google I/O」,6月には「Microsoft TechEd」「WWDC」--といった具合である。

 これらのイベントの度に渡米していては,旅費もかさむ。一方でずっと米国に滞在していれば,イベント取材の合間に様々な企業の取材ができる--。そういう発想で実現した出張でもあった。結局のところ実は,「米国では何をテーマに取材するべきか」は,渡米する時点では決まっていなかった。

4月6日:テーマは確定せぬまま米国へ

写真1●筆者がサンフランシスコで滞在したアパート(白い建物)
写真1●筆者がサンフランシスコで滞在したアパート(白い建物)
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 筆者が米国での滞在先に選んだのは,サンフランシスコのダウンタウンで「ユニオン・スクエア」から西に7~8分ほど歩いた場所にある,週/月単位で入居できるアパートだ(写真1)。日本のワンルーム・マンションに相当する部屋で週1回の掃除が入って,家賃は月額1850ドルから。決して安くはないが,1泊100ドルのビジネス・ホテルに1カ月滞在するのに比べれば割安である。ダウンタウンを離れれば家賃はもっと安くなるだろうが,ダウンタウンの「Moscone Center」で開催されるイベントが多いことから,ここを拠点に決めた。

 筆者が渡米第1週に行った仕事は,「RSA Conference 2008」の取材である。会場のMoscone Centerとアパートを往復し,夜な夜なレポート記事を執筆するだけで1週間はあっという間に過ぎた。

 そして翌週,筆者が米国滞在中に追いかけるべきメイン・テーマは,あっという間に見つかった。

4月14日:渡米第2週で追いかけるべきテーマを確信

 きっかけとなったのは,4月14日に開催された米Salesforce.comによる記者会見である。この会見は米Googleとの合同記者会見であり(写真2),その会場には大きく「Your Business in the Cloud(あなたのビジネスをクラウドへ)」(写真3))と,大書されていたのだ(関連記事:「あなたのビジネスをクラウドへ」,SalesforceとGoogleがMS/IBMに宣戦布告)。

写真2●Salesforce.comとGoogleによる記者会見。写真左はSalesforce.comのCEOであるMarc Benioff氏,写真右はGoogleのCEOであるEric Schmidt氏
写真2●Salesforce.comとGoogleによる記者会見。写真左はSalesforce.comのCEOであるMarc Benioff氏,写真右はGoogleのCEOであるEric Schmidt氏
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写真3●「Your Business in the Cloud(あなたのビジネスをクラウドへ)」
写真3●「Your Business in the Cloud(あなたのビジネスをクラウドへ)」
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 両社の主張は,Salesforce.comやGoogleが運用するサーバーこそが「クラウド」であり,両社のSaaS(Software as a Service)を利用することが,「クラウド・コンピューティング」であるというものであった。その上で両社は,Salesforce.comのCRMアプリケーションと,Googleの企業向けGmailを連携可能にすると発表したのだ。

 これは決して派手な発表ではない。しかし,CRMとメールの連携は,サーバーを自社で運用している場合,なかなか容易ではない。例えばMicrosoftの「Dynamics CRM」も,「Outlook」との連携を強くアピールしている。ところがその機能を使うためには,(1)Active Directoryの構築,(2)Windows Server/Exchange Server/Dynamics CRMの展開,(3)これらサーバーのクラスタリングやバックアップといった運用--が必須である。

 一方,Salesforce.comとGoogleのサービスを利用した場合,システムの構築や運用,連携といった作業は,ユーザー側には一切不要である。ユーザー企業が使用するCRMアプリケーションもメール・サーバーも,全て「クラウド」で実行されており,それらの運用や連携は,クラウドを運営するSalesforce.comやGoogleがやってくれるからだ。

 「Your Business in the Cloud(あなたのビジネスをクラウドへ)」という言葉は,筆者の胸に大きく響いた。