手間と費用がかかるうえ,市場は縮小

 「PBXならば作りやすいのだが…」。企業向けのIP電話システム・ベンダーからよく耳にする言葉である。PBX,つまり電話交換機は,専用に開発されたハードウエアを使っているため,「電話をつなぐ」「付加サービスを提供する」うえで使いやすい。もともと電話システムという明確な目的や機能を実現するために開発してあるから当然である。

 しかし,IP電話システムは違う。元はデータ通信用のシステムである。そのなかに電話用のプロトコルを組み込んだり,専用のハードウエアを一部に利用したりして電話システムに作り変えている。専用の交換機と比べれば,不得手な処理があるのは当然である。しかも1000万以上の利用者を想定したシステムとなると,容易ではない。開発・運用には,費用と手間がかかる。

 これに固定電話自体の市場が縮小という状況が絡む(図2)。携帯電話や他社のIP電話サービスの普及などにより,NTT東西の音声収入は減少する一方である。契約者あたりの収入も減っている。このような状況で“電話”システムに積極的に投資するという判断は難しいだろう。

図2●音声伝送収入/IP系収入と契約者あたりの音声収入
図2●音声伝送収入/IP系収入と契約者あたりの音声収入
IP系収入が増加しているものの,音声伝送収入の減少分を補いきれない。契約者あたりの音声収入も減少している。

 ではNTTグループは,NGNに向けて,ひかり電話という固定電話を相手と接続する基本機能だけに退化させるのか。災害時などの募金で目にすることが多いダイヤルQ2はなくなるのか。ナビダイヤルのように,事業者を指定して全国の拠点に同一の番号で電話できなくなるのか。

 もちろん,現行のサービスすべてを引き継ぐ必要はない。利用者がいたとしても,全部引きずっていたら,コストがかかってたまらない。なにを捨てて,どれを引き継ぐのか,ひかり電話の目指す姿を明らかにしてほしい。