2008年春からつい先日までMozillaの「Firefox 3」,Opera Softwareの「Opera 9.5」,アップルの「Windows版Safari 3.1」,マイクロソフトの「Internet Explorer 8(IE8)Beta 1」とパソコン用の最新ブラウザが次々と登場し,その性能や機能をめぐっての競合関係が注目されてきた。それから間を置かず,今度は携帯端末で動くフルブラウザでも同じような競争が始まっている。

 携帯フルブラウザの市場にはもっぱら“非PC”デバイス用のブラウザを手がけるベンダーもいるが,上記の4社も勢ぞろいしている。最近は,6月にマイクロソフトがInternet Explorer Mobileの機能を強化したWindows Mobile 6.1を発表。Mozillaも今年のキーワードにモバイルを挙げている。

 目下の注目どころは,アップルの「Safari」だろう。このブラウザを搭載したiPhone 3Gが,ソフトバンクモバイルを通じて日本に上陸。NTTドコモも契約獲得を目指すとしており,かなりの台数が出る可能性があるからだ(関連記事1関連記事2)。

 7月15日には,Operaが「Opera Mobile 9.5」の最初のベータ版を出す予定だ(関連記事)。同社は2月の発表当時,「Internet Explorer Mobileの2.5倍の速度でページ・レンダリングが終了する」と,競合製品を強く意識したアピールをしていた。

クロスブラウザの終わりとクロスデバイスの始まり

 携帯フルブラウザの進化や普及は,エンドユーザーのWebの使い方を変える,あるいは変えないまでも使い勝手を向上させる。では,これまで「使うのはもっぱらIEであり,ほかはあまり関係ない」で片付けられることが多かった(と個人的には思う)企業にとっては何か影響があるのだろうか。

 企業はWebを利用する立場にあると同時に,自前で作るにせよ他人に作ってもらうにせよWebを通じて顧客に情報を提供する立場にもある。これまでWebページやWebアプリケーションを作る側は,それを複数種類のパソコン用ブラウザで使えるようにする「クロスブラウザ」への対応に苦労してきた。サイトを見られなかった,使えなかったという理由でビジネスチャンスを逃すわけにはいかない。そのため,利用する立場と違って「IEだけでいい」とは言えない。

 最新のパソコン用ブラウザが出揃うと,クロスブラウザの苦労は減っていくかもしれない。マイクロソフトが,IE8には標準準拠と下位互換性確保の二つのモードを持たせ,うち標準準拠モードをデフォルトにすると発表しているからだ(関連記事)。MozillaやOpera,アップルは従来から標準準拠を重視している。

 そして携帯フルブラウザが進化・普及すると,パソコンとそれ以外の端末のいずれでもWebをきちんと使えるか,ということが重要になる。例えばiPhone 3Gがソフトバンクの思惑通り(関連記事)の売れ行きを示せば,相当数のユーザーがこの端末でフルブラウジングを始める。アップルがiPhone 3GのSafari紹介ページに載せている写真を見る限り,エンドユーザーがPC向けのWebサイトを参照することを想定しているはずだ。

 そうなると,企業にとって「iPhoneユーザーが自社サイトにアクセスしてきたとき,何を用意しておけばよいか」を考える必要が出てくる。同じことはOpera MobileやIE Mobileからのアクセスにも言えるし,フルブラウザを搭載するゲーム機にも言える。活発になってきた携帯フルブラウザの動きは,様々な端末からのアクセスに対応する「クロスデバイス」を,企業が本格的に意識しなくてはならない時代の到来を感じさせる。